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ストレンジ・デイズ




「何? 俺に何か用?」

「……へ」

その男はにこにこと友好的な笑顔を見せながら俺に問いかけてくる。まさか話しかけられるとは思ってなくて、すぐに反応することができなかった。

「いや、何にもないけど」

「嘘だ〜、だってずっと俺の事見てたじゃん!」

そりゃ校内に金髪のギター持った怪しい男がいたら見るだろ! ていうか見てるの俺だけじゃないし!

「女子ってことは1年生だよね〜。あっ、俺もここで食べていい?」

言いわけないだろーー。この男フレンドリー通り越して馴れ馴れしすぎる。俺の一番嫌いなタイプだ。

「無理、連れがいるんで」

「じゃあその連れの子も一緒でいいよ。俺、カノンっていうの。そう呼んでくれていいからさ」

なぜに上から目線。名前とか別に聞いてないから。ぶっちゃけさっさとこんな奴殴り飛ばして逃げ出したいが唄子を待たないといけないし、得体の知れない相手に下手なことはできない。我慢できるところまで我慢だ。
……昔の俺ならとっくにキレていただろうに、変人ばかりのこの学校に入ってから随分我慢強くなったものだ。

「名前なんていうの? そんなに可愛かったらここじゃ大変っしょ、しつこい野郎に付きまとわれて苦労してない?」

お前の事か、とつっこむ間もなくその男に腕をとられて逃げ場を失う。もはや我慢の限界だった俺はすぐにその腕を振り払おうとしたが、そのまえに男の手が第三者によって叩かれた。

「どこの誰だか知らないが、やめろ。彼女が迷惑してるのがわからないのか」

そう言って金髪男から俺を庇ったのは、俺の大親友の漢次郎だった。もし俺が女だったら絶対に惚れていただろうと、その男前な後ろ姿を見つめる。目の前で行われる一方的なナンパ行為にフェミニスト漢次郎は堪えられなかったらしい。

「お前みたいな男がいるから、女性が困るんだよ。もう彼女に絡むのはやめろ」

「……は? あんたこそ邪魔すんなよ。つーか男は俺に話しかけんなチビ」

こいつ、この学校のアイドル漢次郎にこの態度だと? まず間違いなくこの学校の生徒じゃない。ていうか男に対して露骨に態度ちがくね……?

「う、うそ、なんでここに……っ」

後ろから聞こえた声に振り返ると、戻ってきたらしい唄子が唖然とこちらを見ていた。まずい、早くここから離れないとこの金髪の兄ちゃんまで、唄子脳内の響介総受けのための攻めメンバーの一人に加えられてしまう。

「お、お兄ちゃん……!」

そう、こいつのかかれば例えお兄ちゃんであっても俺に迫るチャラ男攻めでしか……ってちょっと待て。

「あ、唄子。久しぶり〜〜」

「ちょっと何で食堂なんかにいるのよ! こんなとこ目立ってしょーがないじゃない!」

唄子は小声で金髪男に詰め寄る。兄と呼ばれた男はへらへらと笑って手を振っていた。

「……お、お兄ちゃんだとぉ?」

このチャラチャラした女癖悪そうな馬鹿っぽいミュージシャン気取りのアホ金髪男が? 唄子の兄貴? 何かの冗談だろ。

「唄子の友達だったなんて超ラッキー♪ この通り正真正銘唄子の兄っす。だからこれからも仲良くしてねん」

顔をひきつらせながら阿佐ヶ丘兄妹を見る俺に、兄の方が軽薄な笑みを見せながらこちらにウインクしてくる。阿佐ヶ丘の血筋って、そろいもそろって変人ばかりだ。俺はこの場からどうやって逃げ出そうか、とそればかり考えていた。





唄子の兄、阿佐ヶ丘歌音は大学生で理事長であるお祖父さんに呼ばれてこの学校に来たらしい。とりあえずナンパ野郎を撃退しようとしていた漢次郎に言い訳して、俺達は唄子兄を食堂から連れ出した。本当はまっすぐ理事長室に行く予定だったが空腹のあまり食堂に寄り道してしまったらしい。

「唄子もひどいな〜〜今日子ちゃんみたいな可愛いお友達がいるならすぐに俺に報告しないとさ〜〜」

「ハハハ……」

どうやらこいつには保険医とは違い俺が男で理由があってここに女装姿でいることを知らないらしい。この学校の人間以外におしえる必要性もないし、当然と言えば当然だが。

「後で番号おしえてネ、今日子ちゃん」

「お兄ちゃん、いい加減にして……」

鬱陶しいくらいの兄の絡みにうんざりらしい唄子。奴もさすがにフォローできないのか苦笑いしながら俺がキレやしないかとこちらをしきりに窺っていた。

「おい、なんで俺まで理事長んとこ行かなきゃならねーんだよ。とっとと解放しろ」

「そしたらお兄ちゃん絶対にキョウゃんについてっちゃうんだもん。お祖父ちゃんと会わなくてすむ口実ばっか探してるのよ。今日だってお兄ちゃんの都合に合わせてわざわざ時間作ったんだから」

「何、そんなに仲悪いの?」

確かに唄子のジジイの気持ちもわからんではない。俺だってこんな孫がいたら愛せる自信ない。

「キョウちゃん今失礼なこと考えてたでしょ。確かに今はちょっとアレだけど、昔はもっとシャイで繊細だったのよ。女とろくに目も合わせられなくて、あたしとまともな会話もできなかったんだから」

「それは……それで問題あるだろ」

それが、何がどうなってこんな事になってるんだか。唄子兄を冷たい目で見ているうちに俺達は理事長室についた。そういえば、こいつのじいさんを見るのは初めてだ。少しドキドキしながら俺は扉が開くのを待った。


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あきゅろす。
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