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ストレンジ・デイズ




「だーかーらー、あの七竈っつー女はマジで根性ひん曲がってるんだって!」

唄子はイライラした様子を隠しもせず、シャーペンの先を机に叩きつけながらそう言い捨てる。俺は顔を机に押し付けながら唄子の熱弁を聞いていた。

「あたし、あれから七竈について調べたのよ。ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

「あー、聞いてる聞いてる」

女のプライドとやらを七竈に深く傷つけられたらしい唄子は、俺の怒りがとっくに燃え尽きた後も奴への怒りを忘れられなかったらしい。男子生徒の情報なら調べずとも知っている唄子だったが、さすがに女はノーマークだった様だ。

「七竈まどか、1年B組性別女、蟹座のA型。得意科目は現国、苦手科目は科学と生物。好きな食べ物はマシュマロ、趣味はお料理と刺繍ってお前キャラ作りすぎだろーが!」

「キレんなよ…」

いつものメモ帳ではなくルーズリーフに殴り書きしたものを読み上げる唄子。特に役にも立ちそうにない情報だが、ここまで調べあげてきた執念にちょっとビビる。個人的にはスリーサイズが知りたいものだが。

「だいたいお前、そんなこと誰からきいたわけ?」

「…七竈はねぇ、B組にファンクラブ作ってんのよファンクラブ」

「あ?」

「親衛隊のこと! キョウちゃんにもあるでしょ。まあキョウちゃんのとことは規模が全然違うけど。そこから割り出したの」

「ほー」

情報がショボいプロフィールだったのはそのせいか。つーかそんなこと調べあげてこいつはどうするつもりなのか。

「七竈って子なら俺も知ってるぜ。サッカー部にもその子と友達の奴多いし」

俺達の前に座っていた善が振り返り話に入ってくる。数少ない女子はそれだけで目立つ存在だが、真の意味で存在感がある奴はそうはいない。

「あいつそんなに有名? やっぱり胸がデケーから?」

「はははっ、確かにあれは相当デカい」

「お前かなり巨乳好きだよな」

「そりゃあもちろんFカップに顔埋めるのは男の夢……って何言わせんだよ! 阿佐ヶ丘さんがいるのに!」

知らねぇよ。お前が勝手にペラペラしゃべったんだろ。それにこの変態女はそんな程度で恥じらったりしないから大丈夫だぞ。

「どんなにスタイルが良くたって、僕のキョーコさんの美しさにかなう女性なんているものか。気にする必要なんてないよ」

俺の隣の席をいつの間にかばっちり確保している鬼頭がウインクしながら臭い台詞を吐いてくる。俺は目もあわせなかった。

「えー、なんだよ菘も七竈さん知ってんの?」

「いいや、僕はキョーコさんしか見えていない。だから嫉妬する必要はないんだよ、ハニー」

「うるせーこっち見んな」

俺としては鬼頭が七竈に乗り換えてくれた方が助かる。顔は俺の足元にも及ばないがあのデカ乳っぷりにはこのナルシストもぐらついてくれるかも。一度会わせてみてもいいかもしれない。

「七竈はね、とにかく男ウケがいいのよ。それでじわじわゆっくりとファンを増やしていってんの、愛想が良くて媚びうるのが上手いから、キョウちゃんと違って」

「ああ? 俺に何か文句あんのか」

「せめてもうちょっとしおらしくしてよ〜。顔しか見てない男しか寄ってこないじゃん!」

「うーん、キョウは誤解されやすいからなぁ」

「僕は見た目だけじゃない、ちゃんと内面もまるごと愛している!」

「おい、お前ら」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺達の会話をぶったぎったのは、鬼の形相の教師だった。今の今まで存在を忘れていたそいつは、教科書を片手に持ち俺達に雷を落とした。

「今は休み時間じゃねーんだぞ! 俺の授業で堂々と雑談しやがって、全員しばらく廊下に立ってろ!!」













「……それにしたって、バケツ持って廊下に立つとかいつの時代だよ」

「うぁああ、まさか優等生のあたしがこんなことになるなんてぇ…、内申下がったらどうしよ〜〜!」

「新名先生相変わらず怒ると怖ぇー。でもこういうのもたまには悪くねぇよなぁ」

「僕はハニーと一緒なら、どこでも天国さ」

「……お前は一生口閉じてろ」


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