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ストレンジ・デイズ
□女の闘い




「マラソン大会ぃ?」

とある晴れた日の掃除の時間、ベランダで黒板消しをはたく唄子の言葉に俺は思わず顔をしかめた。奴はチョークの煙にまみれながらも俺に返事を返した。

「そーよ。といってもこの山の中走って何かあったら大変だから、敷地外をぐるっとまわるだけだけどー…げほっげほっ」

「なんでこんな時期に? 球技大会やったばっかじゃねぇか」

全開になった窓のサッシ部分に乗り上げ、のけぞりながら唄子に話しかける。マラソン大会だなんて、どう考えても冬の醍醐味だろう。真夏ではないとはいえ、そろそろ昼間は気温が上がりだしてきた頃だ。

「三学期なんて最後の追い込みの時期に外なんか走って、風邪でも引いたらどうすんの! うちの学校は代々この時期にやるの。もちろん、ちゃんと意味もあるわ」

「どんな?」

「このマラソン大会で1位になった人が所属する部活は今年一年間、部費が大幅アップするのよ!」

「……マジで?」

そんなことで部費を決めていいのか。本当にテキトーだなこの学校。なんでもかんでも生徒の自主性に任せすぎだろ。

「ちなみに帰宅部が1位になったらどうなんの?」

「2位の人の部活に繰り上げになるだけよ。ま、そんなこと今まで1度もないけどね」

確かに、このスポーツ系クラブの盛んな学校で帰宅部が勝つなんてありえないだろう。ここの陸上部は強いという話を善から聞いた事がある。

「つか、陸上長距離の奴の圧勝じゃね?」

短距離大得意の俺は元サッカー部とはいえ長距離が少し苦手だ。あくまで短距離に比べたら、の話だが。サッカーもぶっちゃけマラソンみたいなもんだが、やはり本業の奴らにはかなわないだろうと思っていたが、唄子は指を振りながらチッチッチッと言ってきた。ムカつく女だ。

「ところがどっこい、うちのマラソン大会は一筋縄ではいかないんだなぁ」

「はぁ? なにがだよ。マラソンはマラソンだろ?」

「ゴールしても終わりじゃないのよ。てか、ゴールしてからが本番、みたいな」

「? 早く言えって」

もったいぶって小出しにしてくる唄子をせっつく俺。奴はなんとも楽しそうにニコニコしながら答えた。

「先着の5名が、早押しクイズ大会の挑戦権を得ることができて、それに一番早く5問正解した人が、優勝。1位になるのよ」

「はああ?」

なんだ、その安っぽいバラエティー番組の企画みたいなマラソン大会は。クイズとマラソンに何の関係があるってんだよ。

「キョウちゃん今、クイズとマラソンに何の関係が? とか思ったでしょ? これだから素人は困るなー」

おい何の素人だコラ。

「うちの学園ではね、知力、体力共にトップクラスでないと頂点に立てないの! ただの筋肉バカでも、ガリ勉でも駄目なのよ!」

そのガリ勉の最たる見本が何を言う。とツッコミたかったが殴られそうなのでやめた。要するに文武両道でなければ部費はやらないということか。

「確かに、それなら陸上圧勝ってわけにはいかねーだろな」

「まあね。でも確か去年の優勝は陸上部よ。速くて頭のいい生徒がいるんだこれが。いくらキョウちゃんでも、これは勝てないわね」

「ああ、そうだな」

あっさり肯定する俺に唄子が目をひんむいて驚いていた。その顔不細工になるからやめろ。

「どしたのキョウちゃん、死ぬほど負けず嫌いなのに……」

「畑違いの競技で勝てるかよ。クイズって聞いて完全にやる気なくしたっつーの」

確かに俺は負けず嫌いだが、スポーツなんでも勝てるなんて思い込むほど浅はかではない。特に個人競技がそうだ。水泳選手には逆立ちしたってクロール100メートルでは勝てないだろうし、それにクイズ大会なんて入れられた日には完全に負け確定だ。

「ま、やるからにはしっかりやるけどな。三十位以内には入れるだろ。外周すんだっけ? 何周?」

「10周だけど」

「たった10周? 余裕余裕」

「馬鹿ねキョウちゃん、うちの敷地がどれだけ広いと……」

唄子の言葉が途中で止まった。奴は黒板消しをかまえた状態のままベランダ下を見ている。なんだなんだとベランダに出てきた俺は、そこから見えたものに奴と同じく硬直した。


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あきゅろす。
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