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ストレンジ・デイズ




資料室へと向かう途中、俺は鬼頭君と色々話してみることにした。もしかすると何かしらのヒントが得られるかもしれない。


「案内してもらってありがとうございます。でもいいんですか? 鬼頭君、何か用事があったんじゃ」

「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」

…怪しい。用事がないならなぜあんなところを一人で歩いていたのか。そしてやけに親切なのもますます怪しい。いや、何でも怪しく感じてしまうだけかもしれないが。

「用事がないなら、どうしてあんなところに?」

「……僕はまだここに来て日が浅いものですから、早く道を覚えるために歩いてまわってるんですよ」

「へ、へぇ」

ズバリ訊いてしまった俺の問いにも淀みなく答える鬼頭君。怪しい様な納得できる様な、よくわからない答えだ。

「つきましたよ、先生。ここが資料室です」

鬼頭君に案内され、俺は持っていた鍵で資料室の扉を開けた。まだ職員室に返してなくて本気で良かった。

薄暗い部屋に入り、とりあえず辺りを見回す。まだ昼だからと電気をつけなかったが、カーテンが光を遮っているせいであまりよく見えない。日当たりをよくしようとカーテンに手を伸ばした時、後ろから扉が閉まる音がした。

「…え?」

「僕も一緒に探しますよ。ぜひ手伝わせてください」

キラキラした王子様スマイルを浮かべる鬼頭君の言葉だけを聞くとってもいい子だが、俺は恐怖を煽られただけだった。まず、なぜ扉を閉めたのか。別段意味はないのかもしれないが深読みすればするほど怖くなる。

「先生は、何を探されているんですか?」

「あ、あの、長い、定規を…」

「定規?」

いやいや、長い定規って何だよ。数学教師でもないのにそんなものいらないだろ。頭を使え博美、お前はもっとできる子のはずだ。

「定規ですか…。多分ですがここにはないんじゃないかと」

「そ、そうですか。じゃあ出ましょう。今すぐに!」

俺はそう言ってすぐさま扉へと逃げるように向かう。しかし取っ手に手をかけて引こうとしてもビクともしない。ドアの前にいた鬼頭君が、片手で開かないように押さえつけていたからだ。

「…え」

扉は押さえたままでゆっくり近づいてくる鬼頭君。そして俺の目の前に立った彼は今までに見たこともないような真剣な顔をしていた。

「えっ、え。ちょ…」

「…先生」

「な、何ですか…っ」

一歩一歩近づいてくる彼と距離をとりたくて後退りする。しかしすぐに壁際に追い詰められてしまった。

「僕が、どうして先生についてきたか、わかりますか?」

「うぇ!? そ、それはもちろん、困ってる俺を助け…」

「下心があったからに決まってるじゃないですか」

「!?」

下心…っていうとつまりアレか!? 俺もデフの生徒達と同じ様に彼の標的になってしまったってことか!? でも俺は断じて鬼頭君の好みの範疇ではない。いったいどうしてこんなことに。

「先生…」

「だ、駄目です! 早まってはいけません! とにかく落ち着い…ひぃっ」

ガシッと俺の肩を掴み、ギラギラした視線を向けられる。駄目だ、喰われる。そう観念した俺の目の前で、彼は頭を下げた。


「お願いします、先生。僕を、風紀委員に入れて頂けませんか!」

「………はい?」

予想外の申し出にポカンと口を開ける俺。そんなことにはかまいもせず、鬼頭君は切なげな標準を浮かべながらつらつらと語りだした。

「僕は編入してきたばかりなので、部活動に入っていません。しかしこの持ち前の美貌と運動神経、何でもそつなくこなしてしまう器量の良さで、あちこちの部活から引っ張りだこなんです。まあ、無理もありません。僕は完璧ですから」

「……はあ」

「僕としてもこの有り余る才能をいかしたいところなのですが、僕には部活よりも大切な事があるんです」

「大切な事?」

「はい、それは僕のフィアンセ、キョーコさんと愛を育むことです。彼女との時間は絶対に削れません!」

「………あ、そう、ですか」

放課後になったって、響介様は別に鬼頭君と愛を育んだりしてないと思うのだが。幻覚でも見ているのかと不安になったが、そこまでお花畑ではない様で悲しげな表情を浮かべながら話を続けた。

「しかし彼女はいつも放課後は残って勉強中…。その間、僕は自分のできることを考えました。そして一つの結論にたどり着いたのです。キョーコさんのいる学校をもっと安全で素晴らしいものにすることこそが、自分の使命だと。だから僕は風紀委員となって、婚約者を守ることにしたんです! だから顧問である先生に、風紀委員加入をお願いしようと思いまして」

「な、なるほどー」

自分の不安が完全に思い込みに終わりほっとすると同時に、鬼頭君が風紀委員!? という驚きで唖然とする俺。まさかの急展開にまるでついていけない。

「しかし鬼頭君。風紀委員というのは誰でもなれるわけではないんです。危険が伴う仕事でもありますから、やはり武道の心得のある強い生徒でないと……」

「それなら大丈夫! 僕、カポエラとかやってますから」

「カポエラ!?」

にっこりと微笑む鬼頭君は余裕綽々の様子でよほど自信があるとみえる。確かに彼はどこかの委員会に所属させなければいけないと考えてはいたが、よりによって風紀とは……。

「わかりました。ではお試し期間を設けて、風紀委員としてやっていけるかどうか先生が見極めます」

「ほんとですか!? ありがとうございます先生! よろしくお願いします!」

本当は不義の疑いのある生徒など風紀委員に入れるわけにはいかないが、これはチャンスだ。試用期間という名目で鬼頭君にくっつき見張ることができる。俺ははしゃぐ鬼頭君と笑顔で握手をかわしながら、密かにそんなことを考えていた。


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