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ストレンジ・デイズ
■帰ってきたあの男




その日の昼休み、早々に昼食を終わらせた俺は保健室で樋廻さんのところで彼と話をしていた。俺の正体を知っていて、なんだかんだでお世話になっている樋廻さんとは時間を見つけてはよく話をするようになっていた。




「何だか最近、藤堂先生が妙によそよそしいんです。どうしてなんでしょう」

「あー…、そうなりましたか」

俺が最近の悩みを相談すると、樋廻さんはなぜか訳知り顔で口元に笑みを浮かべている。訳がわからない俺は彼に詰め寄った。

「やはりあの事件のことで俺に後ろめたさを感じているんでしょうか。俺はもう気にしてません。一緒に食堂にも行ってくれなくなって……早く藤堂さんと元通りの関係に戻りたいです」

「うーん、元通りというのは難しいかもしれませんね」

「なぜです? 俺はもう怒ってないのに?」

「あなたの問題ではありません。藤堂さんは香月さんを嫌っているわけじゃない。これは保証します。ただ、知らない方がいいこともある。これ以上考えるのはやめた方がいい」

「?」

樋廻さんは同情的な視線を俺に向けながらポケットに入っていた飴玉をくれた。なにか誤魔化されたような感じがしたが、俺は飴玉を受け取りそれ以上何も聞かなかった。

「それよりも、あなた方が生徒に与えた衝撃の後始末をしていたのは僕なんですよ。ショックで登校拒否寸前の藤堂先生ファンの子までいたんですから」

「す、すみません……」

そう、俺達は今でこそ別れたということになっているが、昔付き合っていたということで生徒達には伝わっているのだ。男と噂のなかった藤堂さんが俺なんぞと交際していたとなれば、彼に憧れていた生徒はショックも受けるだろう。

「それよりも大変だったのが富里くんです。あの後、気絶した彼がここに運ばれてきて目が覚めたと思ったらさめざめと泣き出して」

「……」

「まさか彼が、あなたをあんなにも好いていたなんて思いませんでしたよ、香月さん」

先程とは打って変わって愉しそうに笑う樋廻さん。こういう人のゴタゴタは彼にとって楽しみらしい。

「立ち直るのは無理かとも思ったんですが、今は完全に復活していますね。うちの副会長に何をしたんですか?」

「……別に、ただあれは藤堂さんに頼まれてついた嘘だと言っただけです」

「真実を言ったんですか? よほど信頼されてるんですねぇ」

これは面白いことになってきた、と思っているのがすけすけだ。こんな風に詮索されるのが嫌いな俺はやめてくれという意味も込めて彼を睨み付けた。

「香月さんには愛しい真宮君がいるんですから、さっさと断ってあげればいいのに」

「余計なお世話です。だいたい、響介様は俺の物なんかじゃありません」

彼は俺が手に入れられるような人じゃない。素敵な女性と結婚して子供を作って幸せになってくれることが俺の望みだ。そして響介様に一生お仕えできたなら、こんな幸せなこともないだろう。

「でも他の方とお付き合いする気はないんですよね」

「当然です。俺はずっと響介様にお仕えするのですから。一生独り身です」

はっきりと断言する俺に樋廻さんが複雑そうな顔をする。一体何の表情かと思案していると、今度は彼の顔つきが一瞬でガラリと変貌した。

「……」

「? どうしました?」

樋廻さんは俺を押し退けると窓に張り付き外を食い入るように覗き込む。いつになく真剣な表情の彼の視線の先を追うと、中庭に集まる人の姿が見えた。


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