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ストレンジ・デイズ




さすがに食堂でそんなことをするわけにもいかないということで、俺達はぞろぞろと連れだって中庭に移動した。どこであろうと決闘とかしちゃ駄目だとは思うが、とりあえず俺は突っ込む気はない。

無駄に広い人工芝の上で会長と変態が対峙し睨み合う。後方で俺と唄子、トミー、漢次郎とその他大勢がその様子を見守っていたが、さすがに人気のある奴らが集合しているせいか野次馬も何事かと集まってきていた。

「夏! やっぱりやめようよ。僕のことはいいから、そんなことしないで」

トミーが先程から延々と夏川の説得を続けるも奴は完全無視。というか、トミーがヒロインみたいになっているのは何でだ。俺をかけての勝負じゃなかったのか。

「いいんだよ、俺はこの鬱陶しい1年をぶっ飛ばすチャンスが欲しかっただけなんだからな」

「ぶっ飛ばす? できるものならやってみなよ」

「はっ、強がっていられんのも今のうちだぜ」

なんかすっかりノリノリになってしまっている鬼頭と夏川の変態ナルシストコンビ。特に鬼頭はいつもよりもテンション二割増しといった感じで、やけに嬉しそうだ。本気で自分が負けるとは思ってないような余裕綽々の顔で夏川を見ている。お前のその自信はいったいどこから来るのやら。

「あいつ、夏川が喧嘩強いって知らねぇのかなぁ…」

じゃなきゃいくら頭がお花畑の奴でもあいつに決闘を申し込んだりしないだろう。あーあー、可哀想に。

「ちょっとキョウちゃん! 早く止めてよ! 鬼頭君を止められるのはキョウちゃんだけでしょ!」

「えー、やだ」

「なんでよ!」

「だって俺、鬼頭がぼっこぼこにされるとこみたいんだもん」

はっきり言って俺はわりと本気で奴が嫌いなので、夏川が痛めつけてくれたら万々歳だ。そして二度と俺に近寄らなくなればいい。

「キョウちゃんマジで最低! だからさっきから借りてきた猫みたいになってたのね!」

「だって鬼頭の奴マジでウザいんだぜ。奴が大人しくなるなら、俺は夏川を応援する」

「違うのよ! あの二人が闘ったら、絶対マズいことになるんだから…!」

「?」

唄子のただならぬ様子に俺は首を傾げる。マズいって、せいぜい鬼頭の顔がちょっと歪になるくらいじゃないのか。いや、それはこいつにとって一大事だな。

「お願いキョウちゃん! 二人をとめて!」

「絶対嫌だ」

「ああっ、もう! ならいいわよ! キョウちゃんには頼まない!」

唄子はそう言うと、今にも拳を交えそうな二人に向かって突っ込んでいった。その行動に唖然としていた俺が止めるまでもなかった。

「お、おい唄子…」

「ストーップ!!」

突然間に割って入ってきた唄子に夏川と鬼頭の手がとまる。ちょっと走っただけでバテたらしい唄子はぜいぜい言いながら二人を諫めた。

「ま、待って下さい、お二人共…。ここはどうか1つ、決闘なんて馬鹿な真似はやめてくれませんか。キョウちゃんも、二人が傷つけあうことは望んでいないはずです」

おい、何勝手なこと言ってやがんだ唄子。俺はめちゃくちゃ望んでるっつーの!

身を呈して二人をとめようとした唄子には驚かされたが、奴がそんな嘘を並べ立てたところで奴らが諦めるとは思えない。さあ、思う存分殴りあってくれ、と期待を込めた目で二人を見ていると、夏川が一歩引いて唄子に小さく笑みを見せた。

「阿佐ヶ丘さんがそう言うなら、俺は引こう」

夏川の発言に俺も唄子もぎょっとする。まさか奴があの女のいうことをきくなんて。唄子もちょっと驚きながらも今度は鬼頭に詰め寄った。

「き、鬼頭様もお願いします!」

「うっ」

なぜか顔を青くさせながら、鬼頭は一歩後ずさる。夏川と同じ行動ではあったが、決定的に何かが違っていた。

「ま、まぁキョーコさんの友人の頼みなら仕方ないかな」

ちょっといつもよりも動揺した様子を見せて鬼頭もなぜか夏川と闘うのをやめた。先程の剣幕が嘘のように二人はすっかり戦意喪失してしまっている。一触即発だった雰囲気は消えさっさと引き上げていく奴らの姿を見ながら、鬼頭といい夏川といい、なぜこぞって唄子の指示に従うのか俺はとても不思議に思っていた。


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