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ストレンジ・デイズ





「漢次郎じゃねーか! 久しぶりだなぁ、元気にして……」

「うるさい! 僕に馴れ馴れしくするな! 僕はお前が生徒会補佐になるのは断固反対だからな! 今日はそれを言いに来た!」

そーだそーだ! と漢次郎の取り巻き(夏川の取り巻き?)達も後ろから呼応する。しかしもちろん俺にはそんな声アウトオブ眼中だ。

「なんだ、漢次郎。お前んなことをわざわざ…。かわいい奴だなぁ」

「ち、近寄るな! お前をこれ以上夏川様に近づけさせはしない。これは隊員達の総意だ! お前の邪魔をするためには、どんなことだってやるんだからな!」

「え、なになに。何してくれんの?」

興奮気味に尋ねた俺に若干引きつつ、漢次郎はその小さい身長を精一杯のばしながら俺に指を突きつけた。

「お前が夏川様にまとわりつくというなら、この僕も生徒会補佐に入る! そして徹底的にお前の邪魔をする! 本来ならば隊長である僕が1人、夏川様に近づくなどルール違反。しかしお前という脅威から夏川様を守るために、隊員達も納得してくれた。ランキング上位者である僕は、それが可能で…」

「マジで!? 漢次郎も入ってくれんの!? ひゃっほーい! やったね! 一緒に頑張ろうぜ〜!」

ぶっちゃけ生徒会補佐とかクソ面倒なことやりたくねぇなぁと思っていた俺だが、漢次郎が入るなら話は別だ。毎日この可愛い顔が拝めるならば、生徒会室にも通ってみようってものだ。

「キョーコさーん!」

「げっ」

ところが俺のそんな有頂天気分は、1人の男の声により奈落の底へと突き落とされる。俺の天敵、鬼頭菘が気色悪い程の満面の笑みでこちらに向かってきた。

「見てくれキョーコさん! 僕は見事今年の抱かれたい男、一位に選ばれたよ! これで君との約束が果たせる!」

「うるせー約束なんかしてねぇよボケカスクソ…って、お前が1位?」

「ああ! これを見てくれ!」

鬼頭が渡してきたのは俺も持っている裏新聞。そこには確かに鬼頭菘が1年の抱かれたい男ナンバー1になっていた。

「おい唄子、これどういうことだ。善が1位じゃなかったのか?」

「あれ、ほんとだ。この二人は接戦だったからそんな不思議でもないけど。そっかー、八十島君2位だったんだー」

「……」

よくよく新聞を読み込んでみると、善は鬼頭にまあまあの差をつけられて負けていた。別にこんなくだらないランキングどうだっていいし、善だって気にしちゃいないだろうが、なんとなく気に入らない。

「嬉しいよキョーコさん…! 僕はキョーコさんと一緒に生徒会補佐として頑張っていくと誓う」

「はぁ? 誰がテメーなんかと! さっさと失せろ!」

「あのー、今日子ちゃん? ちょっといいかな?」

「ああ゙? 今取り込み中だ!」

「う、うん。ごめんね」

やっべトミー相手に何言ってんだ俺。慌てて立てていた中指を引っ込め、トミーに百点満点の笑顔を向ける。

「もう、トミー先輩ったらそんなかしこまらないで下さいよ〜。今日子、トミー先輩の話なら大人しく聞きますよ?」

「ありがとう。あのね、すごく言いづらいんだけど……」

「?」

「今日子ちゃんは、生徒会補佐になれないんだ」

「…………は?」

トミーのトンデモ発言に俺は笑顔のまま硬直する。生徒会補佐になれないって、そんな馬鹿な。

「本っ当にごめんね今日子ちゃん! 僕も早く伝えてあげられれば良かったんだけど、今の今まで気がつかなくて……」

「…え、マジで? マジでなれねぇの? 何で?」

ランキング上位者から選ぶという話は嘘だったのか。突然の話に唖然となる俺に、今まで興味なさそうに冷めた視線を寄越してきていた夏川が口を出してきた。

「生徒会ってのは殆どか“抱かれたい”男で構成されてる。ま、ハルキはちょっと特殊だけどな。その中に“抱きたい”側の奴なんかいちゃいけねーんだよ。いくら人気があるからって、この二つの派閥は相容れない。生徒の嫉妬から逃れるためには、生徒会には俺達と同類の人種が必要ってこと」

「…?」

「つまりね、生徒会補佐に入れるのは抱きたいランキング上位者じゃなくて、抱かれたいランキングの上位者ってことなんだ」

「な…っ!」

その時の俺はまさにガーン! という効果音がお似合いなくらい衝撃を受けていた。そのまま床に手をついて項垂れる俺に漢次郎がふんと鼻を鳴らす。

「へへん、ザマーミロ! 夏川様に近づこうったって、そう簡単にはいかないんだよ」

「そんな…っ、じゃあ俺の今までの、今までの努力は何だったんだよぉ……!」

「別に何の努力もしてないけどね」

余計な口を挟んでくる唄子を項垂れながらも蹴り飛ばす。すんなり避けられてイライラはさらに増幅した。

「そういうわけだから、美作君も補佐にはなれないんだけど……」

申し訳なさそうなトミーが恐る恐る漢次郎に声をかける。可愛い漢次郎はその場で小さくお辞儀をした。

「僕は小宮が入らないなら、それで結構ですから」

「そう? ごめんね。ああでも鬼頭君なら生徒会補佐入れるよ。一緒にどうかな」

「あっ、僕もキョーコさんが入らないならいいです」

せっかくの申し出をリアルに拒否る変態。お前トミーに対して失礼だろ土下座しろコラ。

「残念だね、キョーコさん。せっかく僕らが愛を育むチャンスだったのに」

最後まで鬱陶しい鬼頭に舌打ちせずにはいられない俺。補佐になれず深く落ち込みながらどうやってこの変態をぶっ飛ばしてやろうかと考えていた。


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