ストレンジ・デイズ
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午前中にはテストが終わり、後は昼飯を食べて帰るだけとなった俺は珍しく唄子と共に食堂に来ていた。トミーとは帰る時間が違い、変態鬼頭と一緒に食べるのはやめ、そして勉強に必死だった俺が弁当を作らなかったのが原因だ。
「うわ〜。キョウちゃんと昼ご飯なんて久しぶり〜。なんかわくわくしちゃうわね」
「別にしねーよ」
「あ、あたしが頼んできてあげるわよ。キョウちゃんオムライスだっけ?」
「ちげぇ、カツ丼だっての」
俺は唄子とやいやい言いながら全体を見回し席を探す。注文は唄子に任せ、空いている一般の席についた。いつも生徒会専用の席に座っていたので何か新鮮だ。
しばらく水を飲みながら待っていると、唄子がカレーとオムライスを両手に持ちながらこちらに歩いてきた。
「お待たせ〜。今日は人が少なかったから、すぐ出してくれたわよ。はい、どうぞ」
「おい誰がオムライス買えって言った」
微妙なバランスを保ったまま俺の前にオムライスを置く唄子。自分もカレーと共に席についた奴は俺のことはスルーして手を合わせた。
「キョウちゃん私のために水用意してくれたんだ! うっわ感激!」
「水ごときで騒ぎすぎだろ。普段どんだけ何もしてねぇんだよ」
「実際何もしてないじゃん」
「あ?」
「いっただきまーす!」
やっぱり俺のことは無視してカレーを上機嫌で口元に運ぶ唄子。仕方なく、俺もオムライスを頬張った。
「そうだ、キョウちゃん今日も香月さんと勉強するの?」
「いいや、今日は善と…」
「へ〜、仲良しね」
ほんとは昨日も善といた身としては何となくヒヤヒヤする。昨日はテストのことで頭が一杯だった唄子もなぜか今日はまともな精神状態だ。
「お前、なんか余裕っぽいけど何で? 明日もテストあんのに」
「えー、だって明日は現国と英語なんだもん。楽勝楽勝」
「あっそ」
俺はその現国、英語と今から戦わなければならないのだ。まあ、善がいれば何とかなるだろう。
俺が他人任せに楽観視していた時、耳に何か聞き覚えのある嫌な声が聞こえた。
「お姉様ぁぁ!」
「……」
「あれ、芽々ちゃんだ。キョウちゃん芽々ちゃんがこっち来てるよ」
言われなくともとっくに気がついている。ちらっと後ろを窺うと案の定ちっちゃい女が紙を持ってこちらに向かってくるところで、思わずこの場から裸足で逃げ出したくなってしまう。奴の名は柊芽々。鬼頭とは別の意味の変態だ。
「お久しぶりですお姉様! あなたの親衛隊隊長、柊芽々です!」
「知ってるよ。つか久しぶりって、学校で毎日会ってんだろ」
「そうですけど、鬼頭菘が張り付いていてなかなかお姉様と話せないんですもん」
おお、まさかあの変態が別の変態避けになっていたとは。……どっちがマシかは判断つかないが。
「芽々ちゃん、その手に持ってる紙なに?」
唄子が変態柊の右手に握られている紙を指差しながら訊ねる。すると奴は目を爛々と輝かせながら紙をかざしてきた。
「私、あんずちゃんから奪ってきたこれをお姉様に見せにきたんです! ついに速報来ました!」
「速報? 何の?」
「最神学園、人気投票ランキングですよ!」
「ああ、あの抱きたい抱かれたいランキングの……って速報!?」
唄子が大袈裟に驚き、身を乗り出すように立ち上がる。柊の話など聞き流そうとしていた俺だが、こればかりはそういうわけにもいかない。
「速報って何だよ。例のランキングの結果が出たのか?」
「速報ってのは、新聞部が30人分だけの投票数を数えて暫定的にランキングをつけて発表することよ。テスト前によくやってくれたわよね。ついこの間投票したばかりだってのに、もう結果が出るなんて」
なんだ、まだ確定じゃないのかとちょっとがっくり。再び食事を始めた俺に柊がにこにこしながら躙り寄ってきた。
「私達のお姉様の順位はもちろん……?」
「溜めんな。はやく言え」
「1年の抱きたいランキング、堂々の第1位です! ぱちぱちー!」
「おおお! さっすがキョウちゃん!」
「……ま、当然だな」
はしゃぐ唄子と柊に白い視線を向けてオムライスを食べ続ける。奴らの前ではポーカーフェイスを気取っていたが、内心かなりほっとしていた。
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