ストレンジ・デイズ
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そんなこんなで次の日、俺は朝っぱらからこっそり寮を飛び出し、トイレでカツラをかぶってからそそくさと女子寮へと戻った。寝てるかなぁと思った唄子はすでに起きていて、何でも朝早く学校に言って最後の見直しをするらしい。ご苦労なことだ。
「あー、ヤバい。やりたいことの半分もできなかった」
「いやいやお前勉強しすぎだから。あれ以上頑張れないから」
「また10位以内に入れなかったらどうしよう……」
「10位って、お前志高すぎ」
「キョウちゃんは低すぎ。昨日の香月さんとの勉強会はどうだったの?」
「え。ああ、あれかー。うん、良かったよ。もうバッチリ」
「あっそ。良かったわね」
動揺のあまり声がうわずってしまったが唄子はあまり気にしていないようだった。もはや目の前のテストしか見えていないらしい。
教室に入ると、まだ早い時間にも関わらず何人もの生徒が登校してきていた。そして皆一様に机に向かっている……のではなく、なぜか善の机に群がっていた。
「善! どこが出るか俺に教えてくれー!」
「なあなあ、俺どこ覚えたらいい? ここはもう捨てていい?」
「八十島様ぁ〜! 俺にどうかお情けを〜!」
「……」
どこの学校でも、テスト前の光景は同じだった。八十島は自分の勉強もせず、一人一人懇切丁寧に教えている。昨日もほぼ俺の勉強見ていたはずなのに、大丈夫なのだろうか。
「おっす」
昨日一緒に泊まってくれなかったことに若干腹を立てていたものの、恩義があるため一応挨拶をする。俺に気づいた善は男達の間を掻い潜って目の前まで来た。
「おはよ、キョウ。昨日はちゃんと寝たか?」
「当たり前だろ。朝早すぎて普通に眠いけど」
「俺の協力が無駄にならないように頑張れよ」
「へいへい」
相も変わらず爽やかな善は俺に微笑みかけると、善を呼ぶ仲間の元へと戻っていく。唄子は唄子で一人黙々と机に向かっていたので、俺も仕方なく勉強することにした。
もうすぐでテストが始まろうという頃、廊下の方から甲高い騒ぎ声が聞こえた。ほぼ毎日のことなので、俺には何事かなんてのはわかりきっていた。
「おはよう、キョーコさん! 今日も変わらずに美しいね」
「……おぇ」
鬼頭すずな。俺のストーカーでありマゾの変態ナルシストである。こいつのマイナス要素を挙げるときりがないのでは今はこの辺でやめておこう。
「ああ、休日の間ハニーに会えなかった僕はもう気が狂いそうで毎日悶え苦しんでいたよ。会えて本当に嬉しい」
「はいはい今そういうのほんとにいいから。さっさと自分の席に戻って勉強しろ」
「嫌だなぁ、僕は勉強なんかより、キョーコさんの綺麗な顔を見つめることの方が大事だよ」
「普通にキモい」
いつもは俺達のこんなやり取りを見て善が笑い、唄子が歓喜の悲鳴をあげ、周囲の鬼頭ファンがハンカチ噛んだりしているのだが、今日はテストなので全員ガン無視。なんだか完全に二人の世界みたいになっていてかなり恥ずかしい。
「キョーコさん、もし僕が君のために何でもするって言ったら、何をして欲しい?」
「今すぐ視界から消えて欲しい」
「ああ! そんなつれないところも大好きだよハニー!」
「さわんな変態」
いきなり抱きつこうとしてきた鬼頭を容赦なく蹴りあげる。目の前で派手に転がった鬼頭を無視して勉強を続ける唄子やその他クラスメイトには、ちょっと感心した。
「キョーコさん……もっと、もっと僕に触れて」
「触れたんじゃなくて蹴ったんだよ! 次はその唯一取り柄の顔面殴り飛ばしてやろうか!」
こいつに暴力行為は逆効果だとわかっていてもついつい手を出してしまう。だがだとすれば俺はどうやってこいつを追っ払えばいいんだ。誰か賢い奴教えてくれ。
「キョウちゃんさっきからうるさい! 集中できないじゃない!」
「俺のせいじゃねぇよアホ!」
唄子の理不尽なお叱りを受け、ストレスが最高潮に達する俺。こんなんで無事にテストを受けることができるのだろうかと、ちょっと不安になってきた。
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