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ストレンジ・デイズ




夜もふけた頃、俺は備え付けのユニットバスで身体を洗い(もちろんその後また地味に化粧をした)、持参した夕飯をとった後再び勉強を再開した。俺の一夜漬けに協力してくれた善には感謝しているが、やはり集中力がそんなに続くはずもなく。俺は何度もペンを投げ出してしまった。


「あー、もう無理。眠い。何も頭に入んねぇ」

「頑張れ、あとちょっとで終わるぞ」

「少しだけ仮眠とらせて。30分だけでいいから」

「駄目だ。そんなことしたら朝まで寝るに決まってる」

「んじゃ朝早く起きて勉強する」

「絶対無理だから今やれ。まだ10時だぞ」

「んー、やだー」

引き戻そうとする善に抵抗して、駄々をこねて床に寝そべる。若干うとうとしていると、すぐ横のベッドの下であるものを見つけてしまった。

「あれ、あれれぇ?」

「あっ、こら」

ベッドの下に潜り込み、隠すように置いてあったそれを引きずり出す。それは案の定、男の必需品と言われるエロ本だった。

「お前ベッドの下とかベタなとこに隠してんじゃねぇよー。つか何冊あるんだコレ」

「出すな眺めるなページ捲るな!」

爽やかな善がこんな物を持っているのは若干イメージが崩れるが、男ならば当然だろう。男子校にいるなら、特に。

「俺、中学の時こういうのに興味ないって言ったら兄貴に異常者扱いされた」

「……いや、女は普通ないだろ」

「最近はないわけでもねぇんだけどなぁ。わざわざ買ってまで見たいとは思わねぇよな。女ブスばっかだし」

「キョウ、お前ってほんと開けっ広げだよな。いい性格だとは思うけど」

その後、俺は面白半分に部屋の隅々まで探ってやった。善はそういったものを結構わかりやすい場所に隠しており、教科書の裏から大量のDVDが見つかった時はさすがにちょっと引いた。隣の爽やかイケメンがもう性欲の塊にしか見えない。

「あああ、もうやめてくれ。マジで、それ以上は勘弁……」

「つかお前女教師モノ何本持ってんだよ。ここに美人女教師がいたらぜってぇ同じことする気だろ」

「しねぇよ! ほっとけ! いいから黙って勉強しろ!」

だんだんと気が荒くなってきた善に強制的にエロ本達から引き剥がされ、机に向かわされる。面白いものを見つけて目が冴えてきた俺は、渋々ながらも勉強に戻った。手早くブツを回収して再び隠す善を白い目で見ながら、俺はひたすらペンを動かしていたのだった。












時計の針が12時をまわった頃、善が満足げに頷き手を止めた。きょとんとする俺の頭を撫でて俺からペンを取り上げる。

「よし、勉強はこれで終わり。すぐに寝るぞ」

「えっ、マジで!? もういいの?」

「ああ。必要最低限のことはやったし、前日は早く寝るに限る。お疲れ様」

「やったぁー!」

思わずガッツポーズをする俺を微笑ましそうに見る善。奴はすっと立ち上がるとベッドをとんとんと叩いた。

「じゃ、キョウはこのベッド使ってくれ。シーツ変えたばっかだから綺麗だし」

「へ、それじゃあ善は?」

「俺は友達のとこで寝かしてもらう」

「ええっ、一緒に寝ないのかよ! ……いたっ」

驚きのあまり叫んだ俺の額にデコピンをくらわされる。地味に痛い。

「お前はアホか。一緒に泊まれるわけないだろ」

「嘘だろ! 楽しみにしてたのに。俺はソファーで十分だから、出ていくなよ」

「そういう問題じゃない」

「だったら何で」

「お前が女だから、に決まってんだろ」

「は……」

善のまさかの言葉に思わず絶句してしまう。確かにそれは正論だが、まさか善に言われるとは思っていなかった。

「何でだよ…、お前、俺のこと男に見えるって言って、男扱いしてくれたじゃんか」

「それとこれとは話が別。なんでもない男と女は一緒に泊まっちゃいけねぇの。部屋に入れんのだって、ほんとは駄目なんだぞ」

「お前、一体いつの時代の人間だよ……」

なおも不満をもらす俺に善はため息をつきながら頭を撫でてくる。地毛とバレても困るのでその手を雑に払いのけると善はむっとした。

「絶対、恋人以外の男と泊まったりするなよ。お前、そういう危機感なさすぎて心配なんだよ」

「俺は善だから言ってんに決まってんじゃん! よく知りもしねぇ男の部屋で寝るかよ」

「はいはい、そういうこと軽々しく言わない。とにかく、俺以外には絶対駄目だからな」

善はあらかじめ用意してたらしい荷物を手にとってドアへと向かってしまう。しつこく追いかける俺を振り切り、スリッパを履くと取っ手に手をかけた。

「何もない自信があっても男と女は同じ空間に寝ちゃいけないの。明日は俺のことは気にせず女子寮に戻っててくれていいから、今日はさっさと寝ろ」

「……」

「んな顔すんな。じゃ、また明日学校でな」

善はそれだけ言い残すと後腐れなく出ていってしまう。エロ本持ちすぎのスケベ野郎のくせに律儀というか紳士的すぎる善に感心しつつも、毎日平気な顔して一緒に寝てる俺と唄子はどうなるんだ、とちょっと思ったりした。


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