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ストレンジ・デイズ





案内された善の部屋はとてもシンプルで、特に何もないごく普通の部屋だった。二人部屋を1人で使っている上、整理整頓がきちんとされているため俺の部屋よりも広く感じるが。


「テキトーに座っといて。お茶でも入れるから」

「サンキュー。いいなー1人部屋」

俺は机の前に遠慮なく座ると善の部屋をきょろきょろと見回し観察した。戻ってきた善は善で持っていたグラス2つを机に起き、俺の顔をまじまじと見つめてくる。

「すごいな…、ほんとに男みたいだ」

「マジでー? いや、俺こういうの得意だから」

そりゃほんとは男だからな。男に見えて当然だ。

「そのカツラ? どうしたんだよ」

「えーと、知り合いに借りた」

ほんとは地毛だけど。あっちがヅラなわけだけど。

「樽岸先輩に会ったのが変装してる時で良かったな。キョウを見てもきっと気づかないよ」

「ああ……」

「デフにはほんとに気を付けた方がいい。いい人もたくさんいるけど、悪い奴だって同じくらいいる」

「わかってる」

「大丈夫だったか? 怖くなかった?」

「怖いわけねーだろ」

嘘だ。ほんとはちょっとかなり怖かった。ゆーき先輩は今でも俺のトラウマになっている。

「……ありがと、善。助かった」

「うん」

素直に礼を言うと善は俺の頭を優しく撫でてくれた。いい奴だ。

「キョウが無事で良かった。バレることはないと思うけど、今度樽岸先輩を見かけたらすぐに逃げろよ」

「わかってるって。心配しすぎだろ、お前」

「わかってんならいいよ。早速勉強しようぜ」

「え、もう!?」

「……」

「あ、いや……」

ついつい出てしまった本音に善が冷たい視線をよこしてくる。一瞬自分が何をしにきているか忘れたのは内緒だ。

「テストがヤバいからこんなことまでして俺の部屋に来てんだろ。ほら、早く教科書とノート広げろ」

「……はい」

まるで口うるさい親みたいな善には逆らえず、俺は大人しく勉強の準備をする。こういうところが、善はちょっと香月に似てる気がする。









「さて、じゃあ時間がないからとっととやるぞ。歴史の教科書出して、今から俺が言うところに線を引いてそこを徹底的に覚えろ」

「お、おう」

俺はペンを出して言われた通りどんどん線を引いていく。いったいどれだけ覚えなきゃいけないんだと不安になっていたが、善はかなり要点をまとめていてくれた。

「P18は穴埋めで出る可能性が高いから、文で覚えた方がいいな。P20に書いてある人物の名前は何をした人かということと一緒に覚えること。P23はややこしいからもう捨てろ。サービス問題でしっかり正解すれば落ちることはない」

「善、お前まるで解答用紙見てきたみたいだな……」

「その先生の傾向と対策を頭に入れてるだけだよ」

「いや、俺達テスト初めてじゃん」

「先輩に聞いた。いっこ上に今までのテストの内容全部メモって保存してる人がいるんだ」

「マジで!? いいのかそれ!?」

「もちろん駄目に決まってるだろ。その人も内緒で解答用紙を後輩に解説付きで売ってるんだ。馬鹿みたいに売れんだって」

「お、お前も買ったの?」

「いや、もらった。俺その先輩と仲良いから」

「……」

さらりとズルいことを言う善にちょっとビビる俺。お前、そんなんあるなら俺にもっと早く言えよ。

「? どうした?」

「いや、善がそんなことをするとは思わなかったから。別に悪いって言ってんじゃねえぞ? でもお前、大真面目に勉強しそうだし」

「それはどーも。でも学校にいられるかどうかがかかってるから、必死にもなるよ。それに去年の問題なんか5分の1も出たらラッキーで、結局はその情報から先生の好みを推測して、授業中の先生の言動から出やすい問題を考えていくしかない」

「……お前、そんなこと考えて授業受けてたのか」

「結構参考になるぞ。わかりやすい先生だと、テストに出そうって考えた時に目の色変わるから」

「へぇー…」

俺にとって授業中は昼寝の時間であり、出席すればまだいい方だ。保健室で仮眠をとることもしばしばある。

「キョウも真面目に授業受けてみろよ。それだけでだいぶ違うんだからな」

「へいへい」

「ほら、年号は全部語呂合わせで覚えろよ。この辺でるぞー」

その後も、俺は善にびしびしと必要最低限の知識を叩き込まれていき、勉強の時間はあっという間にすぎていった。


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あきゅろす。
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