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ストレンジ・デイズ




共同スペースのトイレで着替えた俺は、化粧を控えめにしてカツラをはずした状態で出てきた。さすがにすべてメイクをとってしまうと別人すぎるので、小宮今日子の原型は保ったままで女らしさを抑え、無理のない程度で男に見えるよう努力した。小宮としての原型をとどめつつ、周囲には男だと認識させるというのはかなり大変で、こんな時間があるなら勉強しろよ自分と思わないでもなかったが、善と勉強するためだと思えば無駄な努力とはいえなかった。





ようやく満足のいく…というかギリギリセーフかというレベルになり、俺はこそこそと男子寮に潜入した。テレビのある共同スペースにはかなりの人が集まっていたが、俺はなるべくそちらの方を見ないようにしていた。男達の方もテレビの取り合いをしていてこちらにはまったく気づいていなかった。これ幸いと善に言われた通り奴の部屋に向かおうとしたが、男達の話し声についつい立ち止まってしまった。

「ふざけんなよ、今日はバスケを見るって決めてんだよ。さっさとそこどけ」

「はぁ? ここはサッカーだろ。バスケなんか1人で見てろ」

「海外チームなんか見て何が楽しいんだよ」

「ああ? 文句あんならかかってこいやぁ!」

「やんのかテメェ!」

なんだか柄の悪い喧嘩になってきたが、こんなテスト前日にテレビのチャンネル争いをしているのは不良ぐらいのものだろう。きっとあの連中はデフの一員だ。

余計なことに巻き込まれないうちにさっさと立ち去ろうと思ったが、サッカーがやってるなら俺もちょっと見たい。俺がわざと歩調を遅らせていると、とんでもない男が現れた。

「おいうるせーぞてめぇら、お前らの怒鳴り声廊下まで聞こえてるっつの」

「遊貴サン!」

「げっ」

今最も会いたくない男によりにもよって出くわしてしまうなんて。喧嘩の真っ只中に入っていったのは橙遊貴、俺の正体を知っていて、今は樽岸遊貴と呼ばれる俺の元鬼先輩だ。そして俺がずっとメールを無視している相手でもある。よりにもよってこんな姿の時に出くわすなんて。

「何があったから知らねえけど、すぐ手ぇ出すのはやめろ。なんでも暴力で解決すんのは単細胞な証拠だぜ」

どの口が言うか、どの口が。俺は心の中で1人総ツッコミ。

「だって遊貴サン、こいつバスケ見るとかふざけたこと抜かすんすよ。サッカーやってんのに」

「よし、なら殴ってよし」

「えええ!?」

「俺はサッカーを見に来たんだ。そんなふざけた奴は今すぐつまみ出せ」

「さっきと言ってることが違うじゃないっすかぁ」

やっぱりゆーき先輩はゆーき先輩だった。先輩の一言でサッカーを見ることに決まったらしい男達は、それ以上争うこともなく大人しくチャンネル争いをやめた。俺はとりあえず今のうちに逃げなければとこっそり通りすぎようとしたが、そううまくはいかなかった。

「で、お前は何先輩に挨拶もしねぇで行こうとしてんだ?」

「っ…!」

ゆーき先輩に睨まれて、俺は心臓を鷲掴みにされたぐらいビビった。どうしよう、普通にバレてる。

「な、何のことっすか。俺知らな…」

「しらばっくれてんじゃねえよ。下手な変装しやがって。そんなんで俺が騙されると思ったか?」

先輩が俺の胸ぐらを掴み上げ、壁に叩きつける。まずい、逃げ道を塞がれてしまった。

「俺の呼び出しを無視するなんて、また礼儀を一から叩き込む必要があるみたいだな。ちょっと来い」

「えっ、いや待っ……」

ずるずると引きずられ拉致されそうになり、必死で抵抗する俺だったが奴の力にはかなわない。こんなご立腹な先輩に捕まったら終わりだともがいていた時、先輩の手が何者かに掴まれた。


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