ストレンジ・デイズ
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縋れる者をなくした俺の最後の頼みの綱、俺は夜も更けてからそいつに電話をかけていた。昼に何度かけてもまったく繋がらなかったからなのだが。
『……もしもし? キョウ?』
「ああ良かった、善! 今までどこいってたんだよ〜」
『ごめんごめん、部活だったんだ』
困った時の八十島くん。彼と友人になってから俺は助けを求めてばかりだった。しかしこんなテスト前にも部活とは。まぁサッカー強豪校なら当たり前か。
『キョウが電話なんて珍しいな。何かあったのか?』
「実はお前に、折り入って頼みがあるんだが」
『いいよ、俺にできることなら何でも言ってくれ』
内容をききもせず快く了承してくれる善に俺はちょっと涙目。どうしよう、やっぱり俺こいつ好きだ。
「頼む善! 俺に勉強、おしえてくれ!」
『…………キョウ、やっぱりテスト勉強してなかったんだな』
「……」
呆れたような善に返す言葉もない俺。しかし善がいくらいい奴だからといって特待生にテスト前に世話になるというのも無理な話かもしれない。
『……まあ、仕方ないか。別に出そうなとこ一緒に集中的にやるくらいならできるけど』
「マジで!?」
『ああ。ただ、1つ問題がある』
「なに?」
『俺は明日、日曜も朝から8時まで部活だ。さすがにテスト当日はないけど、おしえてやれる時間には、もうすでに寮からの出入りは禁止されてドアが封鎖される』
「え、じゃあテスト初日からしか無理ってこと?
『まあそうなるな』
「じゃあ、月曜のテストはどうなるんだよ!」
『………どんまい』
善の優しさに感激していたのもつかの間、俺は再び絶望の底に突き落とされる。こんな時にまで部活なんかやるサッカー部を呪いたいぐらいだ。
『キョウが男だったら全然平気だったのになぁ。一昨日も友達が何人も俺の部屋に泊まってったけど、普通にバレないし』
「………いや、そうか待てよ。いいこと考えた」
『?』
「俺、明日善とこに泊まる!」
「へ」
「だから、出入り口が閉まる前に善の部屋にいっといて、明日朝早く向こうに戻る」
『いやいや、女が男子寮来たら大騒ぎだから。すぐバレるよ』
「いや、その点は心配ない。とっておきの秘策があるからな」
『秘策って?』
これをやるのはかなりの賭けだが最早なりふり構ってはいられない。俺は電話越しに驚く善を想像しながら自分の奇策を口にした。
「俺が男装すりゃいいんだよ、男装」
とはいったものの、そんなことを馬鹿正直に唄子に話して許されるわけもなく。翌日、俺は机に向かったままこちらを見ようともしない唄子に向かって嘘八百を並べ立てた。
「と、言うわけで俺は今日から泊まりがけで香月のとこで勉強してくっから」
「はいはい」
「明日の朝早くに戻ってくるつもりだけど、お前は勝手に学校行っとけよ」
「はいはい」
「それから学校で勉強するから帰んの遅くなる。テスト期間中はずっと」
「はいはい」
「……んじゃ、そういうことで」
生返事を繰り返しながら唄子は一心不乱に机にかじりついている。たぶん絶対話聞いてない。だがそれは今とても好都合だ。
香月のところに行くなど奴と親しくしている唄子にはバレる確率の高い嘘だが、テスト期間中は唄子も香月に連絡をとっている暇などないだろう。テストさえ終わってしまえばこっちのものだ。後のことなど知ったこっちゃない。俺はこちらを見もしない唄子に背を向け、勉強セットと着替えを持ってそそくさと部屋から出ていった。
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