ストレンジ・デイズ
□試験とランキング
はっきり言って、おれはもう限界だ。これ以上鬼頭と一緒に昼飯を食うのは精神的に無理。しかし唄子が満足するまで、俺は奴と一緒に過ごさなければならない。そういう約束だ。俺はこれを破る気はないし、唄子に告げ口は絶対にさせない。だが、頑張りたくとも精神が限界なのだ。
自分の身を守るためにも俺は奴に直接交渉をすることにした。
「あのー…、唄子さん?」
「なに」
「ちょっとお話が……」
机に向かってガリガリ勉強中の唄子はこちらを振り向いてもくれない。機嫌が悪い証拠だ。
「俺と鬼頭が一緒に飯を食うっていう、例のアレなんだけど」
「ああ、あれね。すんごく良かった。これからもよろしく」
「いや、それがな、あれはちょっと精神的につらいものがあって、できたら1週間に1回、せめて3日に1回にしていただけたらなー、と」
「……」
カリカリカリカリ、ペンの音だけが部屋に響く。ノーコメントって逆に怖い。早く何か言ってくれよ。ていうかちゃんと聞いてる?
「……別に、来週は一緒に食べなくてもいいけど。どうせ見る暇ないし」
「えっ」
唄子からのまさかの言葉に俺はもう少しで両手を掲げ万歳をして歓喜に叫ぶところだった。来週はあの変態から離れて生活できる。そう思ったらなんか泣きそう。
「ありがとう唄子! ありがとう!」
「はいはいはい」
「唄子の物分かりがよくてほんとに良かったよ……でもお前が見る暇ないんなんて珍しいな。どんだけ大事な用があるわけ」
「いや…テストあるでしょ。来週から」
「え?」
「だから、中間テスト」
「え?」
「……まさか、忘れてたのキョウちゃん」
「………」
中間テスト、……中間テスト。忘れてたわけじゃない。だってつい最近善に聞いたから。でもなぜかポーンと頭から飛んでしまっていたのだ。精神を病んでいたせいで。
「信じらんない。何で忘れられんのよ。あたしが横で毎日狂ったように勉強してて何とも思わなかったわけ?」
「お前が狂ったように勉強してんのはいつものことだろ!?」
「違うわよ! いつもより一時間45分も長く勉強してたもん!」
「……っ」
ヤバい、俺教科書を開いてすらいねぇ。つかあんまりまともに授業にも出てない。えっ、まさか留年決定?
「頼む唄子、俺に勉強を教えてくれ!」
「はあ? ふざけんな。無理に決まってんでしょ。ていうか気が散るからさっさと部屋から出てってくんない?」
「ひっでぇ!」
しっしっ、と俺をまるで虫のように邪魔者扱いしてくる唄子。もしこれで全教科赤点にでもなったら俺はどうなるんだ。
「香月さんに頼めばいいじゃない。勉強教えてくださいって」
「やだ。今さらそんなこと言ったら絶対怒られる」
「でももう選択肢ないでしょ。こんな時にキョウちゃんに勉強教えてくれる人がどこにいるの? みんな自分のことで精一杯よ。つーか会話してるこの時間すらもったいないわ。黙って」
「……」
それ以降、唄子は俺が何を言っても応えてくれなくなった。唄子も香月も頼れない。今の俺はまさに絶体絶命状態だった。
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