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ストレンジ・デイズ





「おい鬼頭、昼飯一緒に食うぞ」

「……キョーコさん?」


その日の昼休み、俺は唄子の指示通り鬼頭を昼食に誘った。こんな奴と一緒に飯食うなんざ嫌で仕方ないのだが、どうやら唄子が満足するまで我慢しなければならないらしい。今まで邪険にしてきた俺がいきなり誘ってきて奴も困惑するのではないかと思ったが、鬼頭は眉間にシワを寄せる俺に向かって優雅に微笑み、椅子から立ち上がった。

「待っていたよ。さあ、行こうかハニー」

どうやらそんな心配はご無用だったらしい。こちらの様子をチラチラと窺ってくる唄子と目が合い俺が奴を睨むと、親指をぐっと突き立ててくる。グッジョブじゃねえよ。

俺はこの上なく重いため息をつきながら、にこにこと微笑む鬼頭から視線をそらした。そしてクラスメートの痛いぐらいの視線を感じながら、俺は奴と共に教室から出ていった。









一緒に昼食をとるにあたって唄子は場所まで指定してきやがった。教室とかならまだ良かったのだが、奴が指示したのはなんと食堂。何が悲しくてこんな奴と人目のあるところで食事をしなければならないのか。なかなかハードなバツゲームだ。

人でごった返した食堂で、ようやく空席を見つけた俺達はそこへ向かう。この変態のと一緒にいるところはトミー達にはあまり見られたくない光景なだけに、いつも座っている生徒会専用の席から離れていて俺はほっとした。鬼頭のお仲間だと勘違いされたらたまったもんじゃない。

「どうぞ、キョーコさん」

鬼頭はさっと椅子を引くと俺が座りやすいようにエスコートしてくれる。その早業にやや感心しながら俺は遠慮なくどかっと椅子に座った。

「僕が注文してくるよ。キョーコさん、何が食べたい?」

「俺は弁当あるからいらね」

「わかった。少し寂しい思いをさせてしまうけど、すぐに帰ってくるから待っててね」

本格的に頭がおかしいんじゃないのかなぁという奴の発言を無視して俺は持参した弁当を広げる。奇妙な組み合わせにギャラリーの数が半端なかったが、すでに慣れっこになっていた俺は鬼頭を待たずにさっさと食べ始めた。完璧に気配を消しているが、恐らくこのギャラリーの中に唄子もいて、こちらの様子を逐一窺っているのだろう。ああ、いまいましい。

しかし、今の動作を見る限り鬼頭というのはかなり女の扱いがうまそうだ。いや、変態マゾというのを除けばだが。女の扱いが上手いということは、女慣れしている。すなわちどんな女がモテるのか理解しているということではないだろうか。変態だというのに鬼頭は男女問わず人気があるようだし。

「お待たせ、キョーコさん」

あっという間に戻ってきた鬼頭は、なぜかもう料理を持っていた。アメリカンホットドックだ。外国人である奴には似合っている気もするが、作るのが早すぎないだろうか。いったいどんな技使ったんだよ。

「お前のそれ絶対注文されてから作ってねぇだろ」

「いやいや、これは僕がホットドックを頼んでいたら近くにいた子が譲っててくれたんだよ。僕のファンだって」

「へ、へぇー……」

無駄にキラキラを振り撒きながら俺の真向かいの席につく鬼頭。しかし手に持っているのはホットドッグ。外国人だからパン系が似合うと安易に思っていた俺だが、貴族みたいな奴の風貌にはホットドッグはかなり不似合いだった。

「おい、鬼頭。お前に聞きたいことがある」

「なんだい、ハニー。何でも聞いてくれ」

「お前はどんなことされたら、相手を好きになるんだ」

「? 僕はもうキョーコさんのこと好きだよ」

対トミー攻略の参考にしようと思っての質問だったが、こいつに聞いたのは間違いだったかもしれない。しかしこのまま闇雲にアタックし続けていても、トミーが俺に骨抜きになることはない気がする。

「だからー、お前のことはいいんだよ。人に好きになってもらうにはどうすればいいのかって訊いてんの」

「人に? さぁ、誰かに好かれようと思って行動したことないから、わからないよ」

「……お前、じゃあ俺へのしつこいぐらいのアタックは何なんだ」

日頃の恨みを込めてぎろりと睨み付けてやると、奴は嬉しそうに頬を染めながらにこにこと微笑む。そして慣れた手つきで俺の手をとった。

「だって、僕らはもう相思相愛だろう? 僕はもう初めて会った時から君の虜なんだ。運命としかいいようがない。この手も、許されるならずっと握っていたいよ」

「げっ」

そう言って優しく手の甲に口づけをする鬼頭に、鳥肌がヤバいことになる。慌てて奴の手を振り払い、制服で自分の手の甲をこするように拭いた。

「やめろよ、気色悪い!」

「照れないで、ハニー。僕は君に触れられるなら、例え殴られたとしても幸せなんだから」

「…この変態」

俺が悪態をつきまくっても一向に怒る気配も見せず、むしろ上機嫌になっているようにも見える。こいつは正真正銘のマゾかもしれない、と俺は危機感をさらに募らせたのだった。


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あきゅろす。
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