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ストレンジ・デイズ





「そういうことなら、キョウに入れてもらえるよう周りに頼んでみるよ。もちろん、俺もお前に投票する」


某日、善と共に数学を教えてもらっていた俺は、善に生徒会補佐に選ばれるためにランキング上位に入りたいことを話した。トミーにすげなく断られてしまっただけに善はどうなのだろうと若干ドキドキしていたが、返ってきたのはいつもの笑顔と了解の言葉だった。

「友達だけじゃなくて、サッカー部の先輩にも声かけてみるよ。サッカー部人数多いから、結構票集まるんじゃないか。まあそんなことしなくても、キョウなら1位になれると思うけどさ」

「うおおお……!」

「えっ、なに」

「お前の、友情が、眩しい……!」

「?」

きょとんとする善の前で俺は両足をばたつかせながら歓喜に震えていた。トミーや漢次郎にすげなくお断りされた後なだけに、善の心遣いが身にしみる。

「もうトミーとか漢次郎なんかどうだっていい! お前が一番好きだ、善!」

「……よくわかんねーけど、俺もお前のこと好きだぜ」

「くそ、相変わらず持ち上げるのがうまいな。よし、明日の夕飯はお前の大好きなカレーにしてやる!」

「二人とも、仲が良いのは結構だけどさっさと勉強しようね」

俺達のやり取りを聞いていた四十万先生、もとい校長が笑顔で注意してくる。つか俺いま教師の前でさらりと抱きたい抱かれたいランキングについて話してたんだが大丈夫か。何も突っ込んでこないってことは聞かなかったことにしてくれてるのか。それならそれでいいんだけどさ。

「小宮君はそのプリントの直しをしたら帰っていいからね。八十島君は、他に何か質問ある?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

「それは良かった。ところで君達、来週もここに来るの?」

「俺は、そうさせていただきたいと思ってるんですが、小宮さん次第ですね。キョウ、来週どうする?」

「えっ、何が」

プリントの問題を解きながら聞いていたため話がなかなか頭に入ってこない。来週どうするって、そりゃ普通に来るんじゃないのか?

「だから、来週。いつも通り勉強教えてもらうのかって」

「なんで? 来週なんかあんの?」

「……」

俺の質問にポカーンとする善も校長。どうやら俺はかなりまずいことを口走ってしまったようだ。

「何かって……来週からテストだろ。今朝、まさやんが言ってたじゃんか」

「テスト? …マジで?」

そんな話はいっさい知らない俺は素で善に聞き返してしまう。そんな俺を見て校長は意味深に頷いていた。

「……小宮君、やっぱり君は大物だね。君みたいな生徒は初めて見た」

「なんだよ、来週からってことはまだ1週間あるんだろ? まだまだ余裕じゃねえか」

「いやー…」

なぜか困ったように言葉を濁す善。頭いい連中的にはありえないのかもしれないが、中学の時だって1週間前からテスト勉強なんてしたことないぞ。

「大丈夫、大丈夫。赤点にならねぇ程度に頑張るよ。そのために、こうやって放課後ちゃんと勉強してんだしさ」

「……まぁ確かに、赤点回避ぐらいなら三日前ぐらいからでも平気かな。それにキョウ、最近調子いいし。何かいいことでもあったか?」

――いいこと。
最近、鬼頭のストーカー行為に悩まされている俺の唯一の癒し。そんなものはたった1つしかない。

「いいストレス解消法を見つけたんだよ。誰にも言えない、俺の秘密だけどな」











秘密の方法、と表現したところで所詮は善どころかここの生徒が毎日習慣のように行っていることだ。大浴場でひとっ風呂浴びる。ただし俺の場合は善と違ってほぼ貸し切り同然の一番風呂という些細なオプション付きだが。

唄子に特別許可をもらい大浴場に入ってからすっかりその虜となった俺は、あれからほぼ毎日唄子に内緒でここ入浴しに来ていた。唄子は部活で帰りがだいたい7時をすぎるので、香月と夕飯の用意をしてから風呂に入り、なに食わぬ顔で部屋に戻る時間は十分にあるのだ。最初は俺の正体がバレやしないかとひやひやしたものだが、人が少ない時間帯であることもあり、そんな心配はいっさい必要なかった。それよりも女子寮に戻る時の方が危険だったが、女子は元から人数が少ない上に部活に入っている奴らばかりらしく、遭遇率はゼロに等しい。まずバレることはないだろう。


「あ〜…、極楽極楽」

そんなこんなでまた性懲りもなく大浴場の湯船につかっていた俺が、こんなじじくさい一人言を恥ずかしげもなく呟けるのは、ひとえにここに俺以外誰もいないからだ。こんなだだっ広い風呂を独占できるなんて、今まで部屋のユニットバスに素直に入っていたのが馬鹿らしくなってくる。


しかしそんな俺の幸せな時間も、脱衣所から聞こえてくる男の話し声によって中断させられた。もちろん誰か来たからといって慌てる必要はない。今までだって何人もの男子生徒と遭遇しているが、まったく問題はなかった。ただやっぱり誰かがいるとゆっくり入浴は出来ないし、早々にここを出るはめになる。楽しみを邪魔された俺は、やや苛立ちながら小さくため息をついた。


この時、もし奴に会うことになると俺がわかっていたなら、きっとこの場から一目散に逃げ出しただろう。まさかあいつとこんなところで巡り会うとは、夢にも思っていなかった。


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