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ストレンジ・デイズ
□トラウマ再発




変態編入生、鬼頭の出現で俺は心身共にすっかり疲れはてていた。ただでさえ溜まるストレスがいつも以上に蓄積されていき、もはや我慢の限界だ。




「俺は、風呂に、入りたい…!」


「は?」


度重なる鬼頭のアタックにアレルギー反応でもでるんじゃないかというぐらいまいっていた俺は、寮の部屋にいるとき唄子に常日頃からの不満をぶつけた。当人はぽかんとしながら何を言われたのかわからないという顔をしている。

「入ればいいじゃない、好きなだけ。ほら、どうぞ」

「違う! ユニットバスでなくて! 大浴場に!」


これはもう本当に前々から思っていたことだ。俺は大浴場に、いやせめてユニットバスじゃないところで入浴したい。だいたい今まで大きな風呂に慣れきっていた俺が、あんなトイレを横目に身体を洗う生活などに耐えられるわけがないのだ。

「いや、そんなの無理にきまってんじゃない。だいたいどっちの風呂に入るのよ。女子風呂にいて見つかったら単なる変態よ?」

「じ、じゃあ男子の方で」

「もしバレたらどうすんの。無理、 却下!」

「頼むよ唄子〜。一回、一回だけでいいからさぁ」

どうしても開放的に風呂に入りたかった俺は唄子にすがりつき、みっともなく懇願する。そんな俺を唄子は冷たい目で一瞥するするだけだった。

「だから駄目だってば。そんなリスクは侵せません。諦めなさい」

「ああ、そうかよ。別にいいもんね。もう唄子に内緒で勝手に行くから」

「そんなことしたら香月さんに言いつけるわよ」

「……」

別に言いつけたいなら言えばいいじゃねえか。あんな奴、怖くもなんともねぇ! ……と、笑い飛ばしてやりたいところだったが、このことがバレた時の香月の反応を想像して、俺はなぜか震え上がりそうになった。香月の奴、物凄く怒る気がする。あいつはなぜか、俺が真宮響介だということを異常なぐらい隠したがっているのだ。

「……くそっ」

やっぱり断念するしかないのか。そう諦めかけた時、唄子の本棚が目に入った。そこには以前、唄子が見られるのを死ぬほど嫌がっていた奴のアルバムがある。俺は殆ど条件反射のような素早い動きでそれを手に取った。

「ちょ、キョウちゃんそれ……っ」

「これを返して欲しかったら、俺が大浴場に入れるよう協力しろ! さもなきゃ今すぐ開いて中身をみるぞ!」

「はぁ!? ふざけんじゃないわよ! 早く返して!」

「動くな!」

「……っ」

俺がアルバムを開く動作をすると、唄子の動きが止まった。どうやらこれはこいつにとって、相当見られたくないものらしい。どうせ小さい頃の恥ずかしい写真とかそんなところだろうが、これを使わない手はないだろう。

「キョウちゃん、今すぐ返さないと本気で怒るわよ」

「俺だって本気だ。本気で大浴場に入りたいんだ。あんな窮屈な思いはもうたくさんなんだよ。頼む唄子、一回でもいいんだ」

「……」

涙まじりに訴えると、唄子がうっと喉を詰まらせる。自分はちゃっかり大浴場に入ってる身としては、俺を否定しきれないのだろう。

「頼むよ唄子、別に俺はこのアルバムを見てお前に嫌な思いをさせたいわけじゃない。ただデカい風呂につかりたいだけなんだ」

「………わ、わかったわよ。そこまで言うなら仕方ないわね」

唄子は深くため息をつき、項垂れながらも了承してくれた。奴の同情を買う俺の作戦は見事うまくいったわけだ。

「ありがとう唄子、感謝してる。お前なら協力してくれるって信じてた」

「ただし!」

唄子は脅すような視線を俺に向け、指を鼻先に突きつける。そして形相で俺を睨み付け、声高らかに言い放った。

「条件があるわ。もしこれを破ったら、金輪際キョウちゃんの言うことは聞かない。で、その代わりに私のいうこと何でもきいてもらうからね」


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