ストレンジ・デイズ
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「ごめん、僕、今日子ちゃんには投票できないんだ」
「え゛」
次の日の昼休み、さっそく投票してくれとトミーにお願いしてみると、返ってきたのは予想外の言葉だった。まさか断られると思っていなかった俺は、一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「な、なんで……」
「俺達が誰かの名前書いたらトラブルの元だからな。紙が流出でもしてみろ、新聞部ならやりかねねぇ」
俺の問いに答えたのはトミーではなく会長の夏川だ。こいつは俺とトミーの昼食になぜか必ずといっていいほど割り込んでくる。生徒会専用の席だから仕方ないといえば仕方ないのだが。
「今回は生徒会補佐の選出も兼ねてるからね。僕ら生徒会役員は投票不参加ってことになったんだ」
「ええーっ、そんなぁ」
申し訳なさそうなトミーの説明で理解はできたが納得はできなかった。残念がる俺にトミーは謝ってくれたが、ハンバーグを頬張りながら片手間で頭を下げられてもあまり嬉しくない。
「じゃあじゃあ、漢次郎は俺に入れてくれるよな!?」
「何で僕が」
夏川の隣にいた漢次郎が鯖の味噌煮定食に箸をつけながらつんと言い放つ。ご飯茶碗を持つ姿もたいへん可愛らしい。
「え〜、いいじゃんか投票ぐらい。抱きたい方でも抱かれたい方でもいいからさぁ」
「だから何で僕がお前に抱か……投票しなきゃいけないんだよ!」
「だって生徒会補佐になりてぇんだもん」
俺の言葉に3人の目が点になる。……なにかマズイことでも言っただろうか。
「今日子ちゃん、それ本気?」
「もちろんですよぉ〜、どうしてですか?」
「だって、そんな面倒なことしそうにないから」
やっべ、ちょっと本性バレてやがる。いや、俺は最後まで乙女キャラを通してやるぞ。
「面倒だなんて思いません! だって今日子、トミー先輩ともっと仲良くなりたいんだもん」
「じゃあお前は俺の専属な。しっかり働けよ、貧乳」
「誰がてめぇの下につくって言ったよバ会長」
こちらを見て笑ってくる夏川夏をぎろりと睨んでやる。そんな俺達のやり取りを見て、美作が拳を震わせ立ち上がった。
「僕は絶対認めないぞ小宮今日子! これ以上夏川様の周りをちょろちょろさせてたまるか! お前が生徒会補佐なんて、ぜったいぜったい許さないんだからな!」
「へー、キョーコさん、生徒会の補佐するんだ」
「!」
突然、背後から聞こえた覚えのある声に俺は身震いする。そしてすぐさま振り返り、戦闘体勢をとった。
「き、鬼頭……」
「さがしたよ、今日子さん。せっかく一緒にランチをしようと思っていたのに、すぐにいなくなるんだから。まったく、しょうがない子猫ちゃんだね」
「……」
鬼頭の言葉に気持ち悪さを通り越してドン引いてしまい何も言い返せない俺。賑やかだった昼食タイムが一瞬にして凍りついた。
「でもいいことを聞いた。今日子さんが補佐になるなら、僕もなろうかな。断る気だったんだけど、ハニーがやりたいって言うんなら仕方ない」
「は!?」
とんでもない奴の発言に自分の耳を疑う。こいつが補佐になったら、四六時中付きまとわれるはめになる。そんなの絶対ごめんだ。というか、最初からランキング上位に入ると確信してるんかコイツは。
「お前、1年の鬼頭だろ。入ってくんな。生徒会は恋愛ごっこする場所じゃねえんだよ」
夏川夏が鬼頭を睨み付けながら珍しくまともなことを言ってくれる。他人をどうこう言える立場かお前はとも思うが、マゾ変態よりただの変態の方がマシなので、俺は今だけ会長を応援することにした。
「それに、こいつは俺の女だ。勝手に手ぇ出してんじゃねぇ」
「だれがお前のだよバ会長」
「その通り、彼女は僕のフィアンセだ。横恋慕はやめてくれ」
「あ?」
夏川がげんなりした顔をこちらに向けてくる。俺は否定のため思いっきり首を振った。
「……鬼頭とやら、お前の事情とか関係なく、俺はお前みたいな変な外国人に生徒会に入って欲しくねぇんだよ」
「人種差別かい? よくないな、それは」
「お前が生理的に無理なだけだっつーの! だいたい何だその話し方。1年ならもっと先輩を敬え」
「僕と今日子さんの邪魔をする男に払う敬意はない」
「あ? てめぇ、転校生だからって調子に乗りやがって…ほら、ハルキもなんか言ってやれ」
「…夏川様、副会長はパンを買いに購買に行かれましたが」
「「はああ!?」」
いつの間にかいなくなっていたトミーに夏川と俺は憤る。鬼頭は鼻をならし、夏川を見下ろした。
「会長とやら、そんなに止めたければ僕のランキング入りを阻止すれだけばいいだけのことだ。せいぜい頑張ってくれたまえ」
ま、無理だろうけど。と言わんばかりの顔でせせ笑う鬼頭菘。ふと横を見ると夏川が青筋を立てて怒り狂っているのが傍目からでもわかった。
「そこの上級生が邪魔だから、今は教室に戻るよ。またね、ハニー。愛してるよ」
きゃあああ! というギャラリーの声と共に去っていく変態。空港に到着したハリウッド俳優よろしく、周囲のファンに投げキッスを振り撒いている。なんとか奴の生徒会補佐入りを阻止しなければと、鬼頭の人気を目の当たりにした俺は隣の夏川以上に危機感を感じていた。
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