ストレンジ・デイズ
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「あいつ無理! なんか生理的に絶対無理!」
俺の部屋で夕食を作っていた時、俺はずっと鬼頭菘についての不満を爆発させていた。ポテトサラダを混ぜる手についつい力がこもってしまう。
「鬼頭菘……ですか」
最近盛り付け作業しかしてくれなくなった香月が皿を並べながら眉をひそめる。俺達の作業を勉強の合間ににやにや眺めていた唄子が横から口を出してきた。
「いーじゃない、キョウちゃん。友達が1人増えたんだから! もっと仲良くしましょうよ」
「やだよ、あんなマゾ男。こっちまで変態になっちまう」
あんなまるで理解不能な男とわかりあえる日が来るとは思わない。友達なんてちゃんちゃら可笑しいや。つか唄子の奴、香月といる時だけ微妙にいい子ぶりやがって。お前は友達なんかじゃ満足できない変態だろーが。
「確かに、多少鬱陶しいかもしれませんが、キョウ様に殴られて喜んでいるいわば被虐趣味の方なのでしょう? 都合のいいように利用するだけ利用してあげればいいじゃないですか」
「………香月、お前ってなんか時々黒いよな」
いつもは世のため人のためって感じで生きてるだけに、たまに出る毒舌に重いものを感じる。この差はいったいどこから出るのだろう。
「まあまあ、鬼頭君のことは全然いーじゃない! 曲がりなりにもキョウちゃんに好意を持ってくれてる貴重な美形なんだから! 変態王子攻めってのもなかなか……っとなんでもない!」
香月がいることを忘れて素を出しそうになる唄子を鼻で笑う。お前はいいから向こうで勉強しとけ。
「キョウちゃんたら、そんな上から目線でいいのかしら。そんなんじゃ次の抱きたいランキングの上位に入れないかもよ」
「えっ、俺以外に抱きたいような奴がいんの?」
「……」
俺の言葉に唄子が大袈裟に項垂れる。香月は俺を見てにこにこしながらひょいと手をあげた。
「いないと思います」
「だよなぁ? 俺って普通に可愛いし、男なら当然好きだよな」
「……二人とも、この王道BL最神学園をなめすぎでしょう。女の子に興味ない人なんて、腐るほどいるんですからね」
「そーなの?」
単に女がいないから女っぽい男に目が向いているのだと思っていたが、そうじゃない奴も結構いるのか。もしかして女って逆に不利?
「それにキョウちゃん、ラブレターは捨てるし呼び出されても行かないし、株は大暴落だと思うわ。一部の熱狂的ファンが騒いでるだけって感じ」
「なんだよ、だったらどうすりゃいいわけ」
「そのランキング? というのはよくわかりませんが、要は票を集めればいいんでしょう。中庭で選挙演説とかしてみるのはどうですか」
「香月さん、それなんか違います……」
「え?」
まったく現状を把握していない香月は置いといて、これは色々考えなければならないかもしれない。でもいったいどうすりゃいいのやら。
「まあ、なんとかしたいなら周囲の男に媚売ることだけど、あからさますぎても駄目だしねー。手っ取り早いのだったら友達とかに頼んでみたら? 地道だけど確実よ。あたしキョウちゃんに入れるし、芽々ちゃんとあんずちゃんにも頼んでみる」
「おお、唄子にしてはまともなアドバイス」
つかその紙女にも配られるのか。……なんかいたたまれないな。
「友達だな、よし。友達っていったら善と漢次郎と……他誰かいたか?」
「知らないわよ。っていうか美作君はキョウちゃんに入れてくれないと思うけど」
「なんで!?」
「なんでって。それよりキョウちゃん、富里先輩が誰の名前書くか、気にならないの?」
「あっ、トミー!」
そうだ、トミーがいるんじゃん。奴にも俺の名前を書かせよう。
「まあ奴は普通に俺の名前書くと思うけど、一応釘刺しとくか。明日、昼飯んときにでも頼んでみる」
「だったらついでに、会長にも入れてってお願いしてね」
「それは嫌だ」
いったい何票入ったら1位になれるのかはわからないが、善の友人を取り込んだりすればもっと仲間を増やせるだろう。ちょっと前に俺と友達になりたいとかいう変な奴もいたし、あの変態マゾ男だって俺の名前を書くに決まってる。何より俺には親衛隊があるのだから、この戦力を有効に使えばなんか普通にいけそうな気がしてきた。
「よーし、絶対ランキング上位に入って生徒会補佐になり、トミーを惚れさせこっぴどく振ってさっさとこんな学校おさらばするぞー」
「お、おー……って何であたしが」
握り拳を高く掲げた俺につられて腕をあげる唄子。珍しく気合いを入れる俺を見て香月は微笑ましそうに笑っていた。
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