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ストレンジ・デイズ





「だ、抱きたい抱かれたいランキング……?」

「抱きたい抱かれたいランキングっていうのはね、女役が…」

「言わなくていい! だいたいわかるから!」

唄子の影響で説明されずともどんなものか理解できてしまう自分が嫌だ。だがそんないかがわしいランキングが実際に存在するのか疑わしいものだが。

「この学校も終わってんだな」

「やだキョウちゃんたら。これは毎年新聞部が勝手にやってることなのよ。学校側はノータッチ」

「マジか。でも全校生徒を巻き込んでの派手なイベントなんだろ。教師とかにバレねぇの?」

「内緒でやってるのよ。うちの新聞部には裏新聞が存在するから」

「う、裏新聞?」

なんだその怖い響きは。購読してたら呪われそうだぞ。

「裏新聞はモラルに欠けた内容を記事にする時に出る号外のことよ。抱きたい抱かれたいランキングの結果発表にはこれが使われるの。新聞部がこっそり配布する用紙に抱きたい、抱かれたい人の名前をそれぞれ1人だけ書いて、期限までに新聞部にある投票箱に無記名で投票するってわけ」

「マジでモラルに欠けてやがんな……」

「あら、でもこのランキングって結構大事なのよ。毎年三学期に生徒会選挙があるんだけど、その前哨戦みたいなものなの。ここで上位に選ばれた人は、ほとんど生徒会入りが決定してるから」

「もし生徒会に選ばれたとしたら、拒否権ってあんの?」

「特例として部活動に専念したい生徒とかだったらあるけど、帰宅部にはないわね。だからもしキョウちゃんが選ばれたら生徒会入り決定ってこと」

「そんなに長くここにはいねぇよ。つか普通に選ばれねぇだろ」

一瞬そんな可能性も考えたものの、冷静になって考えてみるとこんなホモ学校で女である俺が上位に入れるとは思わない。自分で言うのもアレだが、人気があるような性格してないし。

「あら、でもこのランキングって投票が抱きたい人、抱かれたい人の2つに、しかもそれぞれ1年、2年、3年と3つの部門に別れてるから、1年の抱きたいランキングにならキョウちゃんも入ると思うけど」

「別に入っていらん」

そんな男からの投票で選ばれたってちっとも嬉しくない。むしろ外部の女子に気をつかって今年限りでそんなランキングは廃止するべきだろう。

「でも今年は1年の部門で一波乱ありそうなのよね。ちょっと前に生徒会補佐っての募集してたの覚えてる?」

「まったく」

あのバ会長のせいで生徒会と名のつくものにはあまり関わりたくない。きっと無意識のうちに記憶から排除していたのだろう。

「生徒会補佐っていうのは生徒会をサポートする人達のことなんだけど、毎年新入生から募集してるのね。でもこの役って生徒会の皆様とお近づきになるから、ある程度人気のある生徒じゃないといじめの対象になっちゃって。だから毎回、時期生徒会候補みたいな生徒がやるんだけど、今年は志願してきた生徒に使えそうな人材があまりいなかったらしいのよ。生徒会役員目当てのミーハー達ばっかりで、それを切ったら人数がまったく足りないから、このランキングで上位に選ばれた子から補佐を選出しようってことになったみたい」

「……へ、へぇ」

俺の憂鬱をよそに、相変わらずの唄子はペラペラと楽しそうに話し続ける。よくそんな早口で噛まずにまくしたてられるものだ。

「一番注目されてた八十島君は部活があるからってあっさり断っちゃうし、ほんとどうなることやら」

「えっ、善の奴スカウトされてたのか?」

「あったりまえよー。今年の1年は不作って言われてるんだけど、顔がいいだけなら結構いるの。でも八十島君が飛び抜けすぎてるのよね。頭よし、顔よし、運動神経よし、おまけに性格もいいときてるわ。どの分野においてもトップを突っ走ってるモテ要素の集合体みたいな人なんだから」

「へー」

つまりは善のスペックが高すぎて周りが霞んでしまうということなのか。普通に友人として付き合ってる時はあんまり意識しないものだが、よくよく考えてみれば奴は才能に恵まれすぎている気がする。

「今年は八十島君の1人勝ちかと思ってたけど、鬼頭君がいるならわかんなくなってきたわね。鬼頭君は顔よし頭よし運動神経よし、おまけに金持ちでハーフときてるわけだから! 今年のランキングも盛り上がってくれそうで良かったぁ。キョウちゃんも票入れてもらえるように頑張ったら?」

「だから俺はいらんっつってんだろ」

「でもでも、生徒会補佐に選ばれたら富里先輩と仲良くなる機会が増えて、好きになってもらえるかもしれないじゃない。そうしたらキョウちゃん、この学校とサヨナラできるわよ」

「…………あ」

唄子に言われるまでまったく気づかなかったが、俺のそもそもの目的はトミーを手酷く振ってやることだ。そのためなら多少面倒でも補佐をやるべきだろう。三学期までには俺もここを去っているだろうから、生徒会に選ばれる可能性はゼロなわけだし。

「よし唄子! 俺は必ずランキングで1位とって、その生徒会補佐とやらになってやるぞ!」

「さっすがキョウちゃん! よっ、色女! 日本一!」

余計なことは言わんでいい、と突っ込みながらもおだてられれば満更でもない。そんなこんなで唄子にすっかり乗せられてしまった俺は、教室のど真ん中で1人意気込んでいた。


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