ストレンジ・デイズ
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そんなこんなで昼休み。トミーとの昼食を一瞬で終わらせた俺は待ち合わせの場所に急いだ。噴水の前にたどり着くと、なぜか周りには目を輝かせた生徒達が立っていて遠巻きに噴水を見ていた。
「……?」
俺が待ち合わせをしている場所を囲むように野次馬がいるなんて、偶然とは思えない。まさか、あんなにギャラリーができるくらいの美人が俺を待っているというのか!?
そうとわかれば全力ダッシュ。俺はちらっと見えた人影に向かって走り出した。
「ごめん、お待た……え」
そこにいたのはおしとやかな女子、ではなく俺よりも背の高い男。というか色素のうっすい外人。限りなく白に近い金髪をした青い目の美形で、なぜか手には鏡を持っている。
なぜこんな目立って仕方がない男が立っているのかはわからないが、邪魔だからさっさとどこかに行って欲しい。
俺が外国人から少し離れたところに立って、まだ姿を見せないすずなさんを待っていると、俺に気づいたその外国人の手から鏡が滑り落ちた。
「……おい、なんか落ちたぞ」
「キョ、キョーコさん!」
「あ?」
なぜか俺の名前を呼び、ずかずかと近づいてくる外国人。何をされるのかと身構えていると、いったいどこに隠し持っていたのか薔薇の花をすっと差し出してきた。
「はじめまして、僕はキトウスズナ! 来てくれて本当に本当に嬉しいよ」
「きとう…すずなぁ!?」
おにあたま……じゃない。鬼頭すずなを見て俺が思ったことはただ1つ。
女じゃない。それだけだ。
俺にあんな恋文を送ってきたのが大和撫子どころか女ではなく、そればかりか日本人ですらなかったのだから落胆を通り越して驚きだ。
「……」
無言で踵を返す俺の腕をすずなという外国人が掴む。ったく男のくせに紛らわしい名前してんじゃねぇよ。
「待って、キョーコさん。話を聞いて」
「話って、どーせ付き合えとかそんなんだろ。お断りだっつーの」
「違う。僕は、君に結婚を申し込みに来たんだ」
「はあ!?」
とんでもないことを言い出す男に俺は思わず立ち止まって振り替える。鬼頭とやらは髪をかきあげキラキラした笑顔をこちらに向けてきた。
「今すぐにとは言わないよ。キョーコさんが学校を卒業するまで僕は待つ」
「いやいや、何で俺がお前なんかと結婚しなきゃいけねぇんだよ」
「僕と君は結ばれる運命なんだ。君と初めて会った時、僕はそれを確信した」
「俺は会ったことすら知らん!」
吐き捨てる俺に鬼頭すずなはオーバーに天を仰ぐ。リアクションの激しい男に俺は白い目を向けた。
「馬鹿な、僕を忘れるなんて酷いよキョーコさん! 一昨日の朝、すれ違ったじゃないか」
「そんなのいちいち覚えられっか!」
「話もしたのに」
「はあ? いつ?」
「キョーコさん、すれ違ったとき僕とぶつかって、倒れた僕に『よそ見してんじゃねーよノロマ!』って言い残して走ってったこと、もう忘れちゃったの?」
「俺サイテーすぎるだろ! お前もそんな奴によく惚れたな!」
しかしこんな目立つ外国人にぶつかったことすら覚えてないなんて、俺も相当重症だ。基本的に周りの人間なんか見てない俺が悪いのだが。
「とにかく、俺はお前なんか絶対にお断りだからな! 二度と俺に近づくんじゃねぇ」
「なぜ? 僕達ほどお似合いなカップルはいないのに」
「どこがお似合いだよ」
「美男美女でパーフェクトじゃないか。大丈夫、君だってすぐに僕を好きになるさ」
「……」
……こいつ、生徒会長、夏川夏と同じ臭いがする。ナルシストで自意識過剰、自分は何をしても許されると思っているたちの悪いタイプの人間だ。
「僕と幸せになろう、キョーコさん。二人ならきっといい家族が作れる」
うっとりとした表情で俺の手をとる勘違い野郎。その感触に薄気味悪いものを感じた俺はとっさに奴をぶん殴っていた。
「触んな変態野郎!」
俺の拳はいとも簡単に奴の顔にめり込む。無様にぶっ倒れる男に、もう存在も忘れていた周りの野次馬が叫んでいた。
「あ……」
見事にきまってしまったアッパーカットに今更ながら罪悪感が込み上げる。変態野郎は言い過ぎだし、殴ったのはさすがにやりすぎだったかもしれない。
「お、おい外国人…」
奴は俺に殴られた顎をおさえながら落とした鏡を拾い上げ顔の状態をチェックしている。そんなに重症ではなさそうだが慰謝料とか請求されたらどうしよう。無駄に顔がいいから十分あり得る。
めんどくさいことになったら嫌だなぁと俺が思っていると、奴は自分の顔をまじまじと見つめながらぼそりと呟いた。
「すごい、なんて理想的なんだ……」
「…?」
「もう一回、もう一回僕を殴ってくれ!」
[……」
ぞぞぞっ。
目を輝かせ恍惚とした表情を浮かべながら俺にすがりついてくる男。
マゾだ。こいつ、絶対に、関わっちゃいけないタイプの危ない人だ。
「ひいぃ、来るなぁ!」
「あっ、待ってキョーコさん!」
身の危険と生理的嫌悪感を感じた俺は奴に背を向けて走り出す。後ろから俺を呼ぶ声を振り切るように、全速力でその場から逃げ出した。
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