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ストレンジ・デイズ



俺は渋る藤堂先生を半ば無理やり食堂へと引っ張り込み、昼ご飯を一緒に食べることにした。不良として名高いデフの余目君と樽岸君を後ろに付き従えて。

「ね、俺の言った通りでしょう。見てください、誰1人藤堂先生に近づいてこようとしない」

「…いや、確かにそうなんだけどよ…」

予想通り、藤堂先生ファンの子達は俺達を囲むようにして歩く不良にビビってしまい、まったく声をかけてこなかった。我ながらいい作戦だ。

「なんか悪目立ちしてるっていうか…視線の数がいつもの比じゃねえっていうか…」

「まあ、確かに有り得ないメンバーですからね」

先生に人気のある藤堂先生、どちらかといえば嫌われている俺、そして不良として恐れられている余目君と樽岸君。どう考えてもプライベートで仲良くしていそうな4人組ではない。

「先生ー…俺達訳わかんねえんすけど」

「なんでこんなに見られなきゃならないんだか…」

「まあまあまあ。2人共、俺と一緒に食べたかったんでしょう? だったらいいじゃないですか」

俺のテキトーな説得に、それもそうだなと納得してくれる単純な余目君と岸君。きっと彼らは普段、目を合わせないように避けられるタイプの人間だから、こんな大勢の人間にじろじろと見られることになれていないのだろう。

俺達があいている席を見つけ腰掛けると、見事に周辺が俺達の周りから消えた。隣にいる藤堂先生が目を開きながら周りをきょろきょろと見渡す。

「すげぇ…。俺、生徒にこんな距離とられたの初めて」

「ええ。まるで発育阻止円の見られる抗生物質のようですね」

「……その例え、めちゃくちゃわかりづれぇんだけど」

良い子な余目君と樽岸君が注文をとってこようと申し出てくれたが、2人がいなくなればあっという間に人が寄って来そうなので俺と余目君で行くことにした。余目君と一緒に歩くと人が嘘みたいに避けていくのが端から見ていてすごかった。

案外早く注文を取り戻ってみると、樽岸君と藤堂先生がなにやら和気藹々と阿蘇山の話をしていた。藤堂先生はあまり樽岸君達のような不良に対して恐怖心はないようだ。むしろ初対面なのに普通に仲良くしている。

「先生、頼んできましたよ。カツ丼で良かったですよね」

「おお、サンキュー」

ついでに取ってきた水を目の前に置くと藤堂先生は笑顔で礼を言う。向かいに余目君と樽岸君、横には藤堂先生がいていつも1人で食べている俺にはなんだか新鮮だ。

「久しぶりに自分の手料理以外のもんが食えるとなると、なんか昼飯も楽しみになってくるな」

「インスタント食品には頼らなかったんですか? 毎日作るなんてすごいですよね」

「アホか、そんなもんばっか食ってたらすぐデブってこの体型を維持できないじゃねえか」

「あー…なるほど」

藤堂先生らしい答えだなどと考えていた俺だが、ふと思いついたことがあり、先生に提案してみた。

「実は俺、夜にキョウさ…いえ、友人の夕飯を作る手伝いをしているんですが、良かったら藤堂先生の分も作りましょうか?」

「えっ」

響介様の八十島君への夕飯作りは、いまだに続いている。不味い料理しか作れなかった響介様の腕はめきめきと上達していたが、俺が横にいないとやはり不安なようだった。

「い、いいのか…?」

「はい、一気に4人分ぐらい作るんで、あと1人ぐらい増えても大丈夫ですよ。1ヶ月分の食費をくだされば、1ヶ月間先生の部屋にお届けします」

藤堂先生にもらった分のお金で絶対黒字にしてやるとこっそり企んでいた俺を見て、先生は目をキラキラさせてきた。身構える間もなく、ぎゅっと手を握られる。

「ありがとう先生! ちょうど自分の手料理に飽き飽きしてたとこだったんだよ!」

「いえ、ついでですから…」

俺の予想以上に歓喜する藤堂先生。つい安請け合いしてしまったが、響介様は了解してくれるだろうか。まあ嫌だと拒否されたら俺が作ればいい話だけど。

俺にすがりついて喜ぶ先生をどうやって引き剥がそうかと悩んでいると、後ろからテンションの高い声が聞こえてきた。

「あっ、山ちゃん! なーんや竜二と遊貴も一緒におったんか」

「う、上原くん…」

厄介なのがきたと顔を引きつらせていた俺だが、彼は藤堂先生の存在に気づくと目の色を変えて飛びついた。

「あーっ、藤堂先生やないですか! 俺、F組の上原誉いいます! どうぞよろし――」

「ぎゃああ!」

上原君を見るなり藤堂先生はビビりながら俺を盾にした。その過剰すぎる反応に上原君が硬直してしまっている。

「藤堂先生、どうしたんですか」

「む、無理…!」

「何が?」

「俺、可愛い系の男は無理なんだよ!」

「へ」

てっきり上原君の凶悪さを知ってのその態度かと思っていたが、上原君の顔が駄目なだけだったらしい。しかし可愛い顔の男子が苦手って、なんてピンポイントなトラウマなんだ。

「あんな顔した奴はすぐ俺に抱いてくれだのなんだのと言ってくるから、もう拒否反応が…」

「だそうです、上原君。すみませんが離れてください」

「えーっ! 俺そんなこと絶対言わへんのにー!」

以前、上原君が藤堂先生を狙っているような発言をしていたことを思い出し、俺は可愛い顔を膨らませて俺達を睨む上原君をなんとか追い返した。最初は渋っていた彼だが、荒木のためにも俺のいうことは聞いた方がいいと思ったのか、意外と簡単に諦めてくれた。

上原君と一悶着あったせいで余計に目立ってしまったが、その後俺達は特にトラブルもなく昼食を終えた。余目君達もおとなしく、藤堂先生が満足げだったので俺はほっと胸をなで下ろしたのだった。


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