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ストレンジ・デイズ



「キョウ様! いったいどうなされたんですか!?」

突然現れ走ってきたかと思えば、響介様にぎゅっと抱きつかれる俺。いったい何のサービスだと思っていると、彼は俺の襟首をぐっと掴みあげてきた。

「俺を匿え香月! 追われてんだ!」

「ええっ!」

追われてるって、誰に? 普通に学生生活を送っていて追われる状況になんてなるものなの? と疑問はつきないが、今はそれどころではない。響介様に助けを求められた以上、俺はそれに答えなければ。

「キョウ様、こちらに」

急を要すると思った俺は少々手荒に響介様の肩を掴み、茂みに押し込む。響介様も相当焦っているのか俺の雑な扱いに文句も言わず、肩で息をしながら芝生の上に腹ばいになった。

響介様の姿を隠した俺は彼が走ってきた方向を見据え、追ってくるであろう敵を待つ。響介様を襲う悪漢ならばぶっ飛ばしてやろうと身構えていたが、少しずつ姿が見えてきた追っ手は、意外にも俺のよく知る人物だった。

「ひ、一二三君…!?」

いつもの冷静沈着なはずの風紀委員長の一二三君が響介様にも引けを取らぬ速さで突進してくる。彼は俺の存在に気がつくと急停止して辺りをきょろきょろと見回した。

「山田先生! 今ここに小宮今日子が来ませんでしたか!」

「え…?」

「あの女、何度言っても化粧はとらない、制服を着崩す、授業はサボってやりたい放題なんですよ! 今日こそ指導室に引っ張りこんで……あっ、貴様ら!」

目をぎらつかせながら息巻く一二三君は、俺の後ろにいる荒木達の存在に気がつき、持っていた木刀をかまえた。

「またこんなところで油を売っているのか! あんなことがあったからといって俺が貴様らを怖がるなんて思うなよ! これからも厳しく取り締まっていくからな!」

一二三君の挑発に普段ならば即刻言い返してくるはずの荒木が何も言わない。どうしたんだろうと振り向くと彼は響介様が隠れている茂みを一心に見つめていた。

「おい荒木! 聞いてるのか! いったいどこを見て…」

「あー、一二三君! 今ちょうど俺が注意していたところなんです! 荒木達のことは俺に任せて、一二三君は早く小宮さんを追わなければ」

「あっ、そうでした! あの女、いったいどこに…」

「小宮さんならついさっき、あっちに走っていくのを見ましたよ」

「ほんとですか? ありがとうございます山田先生! 荒木達のこと、よろしくお願いします! 反省室にぶち込んでやってください!」

一二三君はこちらに向かって一礼すると、響介様の偽名を叫びながら俺が指差した方向に走り去っていく。俺は彼にエールを送りながらにこやかに手を振った。

「うわー…、俺、いま初めて一二三の野郎をかわいそうに思った」

俺は一二三君の姿が完全に見えなくなったのを確認すると余目君の言葉を無視して、身を潜めている響介様の肩を叩いた。

「キョウ様、彼は行ってしまいましたよ。もう心配ありません」

「ほんとか!?」

素早い動きで起き上がった響介様は制服についた木くずをはらう。俺も彼の乱れた髪の毛を手で丁寧に整えた。

「くっそ、一二三の野郎俺ばっか目の敵にしやがって…つーかどんだけ体力あるんだよ。どこの野生児なんだよアイツは」

一二三君に悪態をつく響介様は目がすわっていて男丸出しだ。俺はイラついた様子の響介様の肩に手を添え、にっこり微笑んだ。

「キョウ様、一二三君のこと、というか他の人のことをそんな悪し様に言うのはあまりよくありませんよ」

「ああ? んだと香月てめぇ誰に向かってそんな口きいて―」

「もうすぐ授業が始まってしまいます。よろしければ俺が教室までお送りして…」

「おーっと香月! 今日はありがとな! お前のおかげで助かったぞ。さっすが俺の香月! じゃ、そういうことで」

響介様は俺にぎゅっと抱きついた後、手をあげ逃げるようにして走り去っていく。またサボるんだろうなぁと思いつつも俺は響介様を止めることはなかった。



「……天使だ」


後ろでアブナいことを呟いているデフのトップと一緒にいられるよりは、ずっとマシだから。


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