ストレンジ・デイズ □ 集合をかけられた俺達は5人ずつコートの中央に並ぶ。その最中、俺の横にいた小山内は隣のコートをちらちらと盗み見ていた。おそらく横で試合をしている夏川を見ているのだろう。あのバ会長がいるせいなのか隣の試合の歓声がハンパない。だが小山内は小さくため息をついただけで、それ以上夏川の方に顔を向けることはなかった。あれだけ話したがっていたのに、もう夏川のことはいいのだろうか。まあ俺のとしては、もうあんな奴にかまう必要はないと思うのだが。 そんなこんなで小山内の動向が気になっていた俺だが、向こうのチームから敵意のこもった視線を感じ負けじと睨み返す。すると中央にいた背の高い見るからにバスケの得意そうな男が俺の前までやってきた。 「小宮今日子」 えっ、なんで俺の名前…。面識ないでしょアンタと俺。つか見下ろしてんじゃねーよ、ちくしょう。 「んだよテメー、俺に何か用か」 「お前潰す」 「……」 突然の宣戦布告に言葉を失う俺を残して、そののっぽの男はチームメイトの元へ戻っていった。大変だ、敵チームに変な人がいる。 「キョウちゃん、頑張ってー!」 俺が呆然としているとコート外から唄子の声援が聞こえた。あれ、なんでいるのコイツ。 「唄子、お前バレーいかなくていいのか?」 「うん。まだちょっと時間あるから、キョウちゃんの試合見てるー」 「ふーん。ていうかさっき、向こうのチームの変な奴に声かけられたんだけど」 「えっ、誰!?」 俺は敵チームで一番目立つ奴を顎で指し示す。途端に唄子の目の色が変わった。なんだ、やっぱり知ってる奴か。それなりにイケメンだったしな。 「ちょ、あれD組の垣内(カイト)くんじゃない! 相変わらず背ぇ高っ」 「いきなり片言で潰すって言われた。俺初対面なのに」 「初対面は初対面だけど、キョウちゃん前に垣内君からラブレターもらったじゃん」 「は!? なにそれ知らねぇ!」 絶句する俺を一別してこれ見よがしに深くため息をつく唄子。まあ今のであの男に潰されそうになっている理由がなんとなくわかったが。 「せっかくの告白をシカトされたら誰だって怒ると思うよ〜。まあキョウちゃん今まで何通もラブレターもらってるから、覚えてなくても仕方ないけど」 「男にラブレターなんて……キモいな」 「いや、この場合女装してるキョウちゃんが悪いでしょ。でも垣内くん、たしか男が好きだったはずなんだけどなー。まあキョウちゃんは性別をこえた魅力があるから」 「お前いくら孫だからって外部生なのになんでそんなに詳しいんだよ。…怖いな」 「あたしが知ってることなんて大抵みんな知ってることなの! それに垣内君は目立つもん。バスケ部の部長だし」 「えっ、1年なのに部長?」 「あ、いや中等部の時の話なんだけどね。つか、そんなことより!」 俺の腕をぐいっと引き寄せた唄子が顔を近づけてくる。やめろよ気色悪いな。 「対戦相手はD組なんだから、キョウちゃん気をつけてね。F組ほどひどくはないけど、一応デフだし。どんな卑怯な手使ってくるかわかんないから」 「おいおいバスケ部のくせにスポーツマンシップはないのかよ」 「垣内先輩は多分大丈夫だと思うけど…。とりあえず気をつけて」 縁起の悪いことを言うだけ言ってコートの外へと唄子は戻っていく。せっかく楽しみだった試合なのに、相手がフェアじゃないなら面白くもなんともない。 ピリピリした空気の中始まった試合だが、ジャンプボールはウチのクラスの唯一のバスケ部である5番のゼッケンをつけた男に任せた。ジャンプ力には自信があるが、俺には背の高さと腕力が足りない。俺は相手チームの中で一番背の低い奴につくことにした。すぐ目の前にはわかりやすいぐらい闘志メラメラの垣内の姿がある。 「覚悟しろ小宮、手加減はしない」 「それはいいけどお前、いちいち睨んでくんのはやめろ。どういうつもりだよ」 「お前にふられた腹いせだ」 「正直だなオイ!」 俺達がそんな会話をしていると、バスケットボールを手にした審判がコート中央までやってくる。そのボールがゆっくりと宙に上げられ、試合が始まった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |