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ストレンジ・デイズ



バレーの見学を適当に切り上げて、俺はバスケの試合が行われている体育館に入った。俺の出場する試合の開始5分前、俺達のチームはシュート練習をしていた。チームのメンバーの名前を俺はほとんど知らなかったが、その中に見知った顔を見つけた。うちのクラスのいじめられっ子、小山内…だったっけか。まさかコイツと一緒にバスケをするはめになるとは。


「おい、小山内!」

俺は見るからにとろくさそうなもやしっ子に喧嘩腰に話しかける。奴はシューティングもできずにボールを持ってオロオロしているところだった。

「ぼ、僕?」

「お前以外に小山内がいんのかよ」

「…ごめんなさい」

こいつの態度としゃべり方がほんとにいちいちムカつく。元々こういう性格なのか、いじめられ続けてこんなうじうじした奴になったのか。どちらにせよ嫌なタイプだ。

「お前、頼むから足手まといにはなるなよ」

「うん、一応頑張ってみるよ…」

「頑張るだぁ? 口だけでは何とでも言えるっての」

俺はやたらビクビクする小山内からやや距離をとり、自分が持っていたボールを下に置いた。

「俺に向かって投げてみろ」

「えっ?」

「お前のボール投げろって言ってんの。試合中だと思って本気でこい」

やっと俺の言いたいことを理解した小山内は、こくんと頷くと持っていたボールを投げてくる。奴の手を離れたボールは大きく弧を描き、俺の足下に転がった。

「ふざけてんのかてめぇぇ!」

「ご、ごめんなさい!」

うわぁ、ダメだこいつ。もしかしたらさっきの唄子以上に足手まといかもしれない。ソフトと違って好きなときにタイム取れないし、今のうちに鍛えておいた方がいいな。

「いいか、よく見とけ。投げるときは手首を使って押し出すように、…こんな感じた。あと絶対に回転かけること。スピードが大事だからな」

偉そうな俺の指導にそれはそれは熱心に耳を傾け、首がもげそうなほど何度も頷く小山内。奴のアホみたいな眼鏡がぶらぶらと揺れていた。

「てかお前メガネ邪魔だろ? プレイ中ははずしとけよ。どうせダテなんだから」

「え、コレはだめだよ!」

眼鏡をぶんどろうとする俺に対し、一体どこにそんな力があるんだと思うぐらい小山内は必死に抵抗する。俺も俺で奴が異常に拒否するのでやけになっていると、後ろから嫌な奴に声をかけられた。

「おい貧乳!」

俺をこんな風に呼ぶ奴はただ1人。俺様生徒会長、夏川夏だけだ(やっと名前を覚えた)。

「お前ちょっとこっち来い!」

「誰が行くかボケ!」

奴は隣のコート、すなわち仕切りになっているネットの向こう側から俺を呼んでいる。とはいえネットをくぐれば普通にこちら側に来られるのだから、用があるなら奴が来ればいい。いや来られたとしてもそれはそれで嫌だが。

「今すぐ来ねーとお前の恥ずかしい秘密をバラす!」

「今すぐ行きます!」

夏川の脅しに屈した俺は小走りで奴の元へと向かう。こんなギャラリーが多い中、俺が男だとバラされたらたまったもんじゃない。

「お前のシューティング見てたぞ〜。両手打ちなんて器用なことするなぁ。ちょっと徹底しすぎじゃね?」

うわっ、早速痛いところをつかれた。こいつまさか、わざとか?

「別にいいだろ。俺は器用なんだ」

「だよな〜、まさかスポーツ万能で有名な小宮くんが両手打ちしか出来ないわけないもんな〜」

「あ、あたり前だろ」

おいおいなんでコイツこんなに鋭いんだ。声は少々上擦ったが、どうにかごまかせた…よな?

「A組、D組集合!」

審判をする教師に呼ばれ慌ててコートへ走る。夏川とさよならできるきっかけができて俺はほっとしていた。後ろから「頑張れよ〜!」という嫌味ったらしい声が聞こえたが、全力で無視した。


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