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ストレンジ・デイズ




「ターイム!!」

またしても大声で叫び、ランナーのくせに八十島のところまで駆け寄る俺。主審には「またお前か」というげんなりした顔をされた。

「八十島! それよこせ!」

「お、おお」

俺は八十島の横で奴からふんだくったバットをかまえる。主審や教師が何か言いたげだったがすべて無視した。

「いいか、バットはまず振るんじゃなくてこうやって落とすようにしてみろ。左手だけで右はそえるだけ。ほら、やってみろ」

「えっと、こうか?」

「だいぶマシだ」

たった数回練習しただけで、基本的な振り方をマスターする八十島。こいつ、相当飲み込みが早い。あと1時間くれればまともなバッターにする自信はあるのだが、そんな練習今やるなよという周りの視線がそれを許してくれない。

「よし、じゃあその要領でやれよ。調子に乗ってボール球まで振るんじゃないぞ」

「うん。ありがとう小宮、俺なんかできるような気がしてきた!」

「頑張れ。できなきゃコロス」

八十島はやる気満々だったが、はっきり言って俺は少しも奴に期待していなかった。ダブルプレーが嫌だから動かないでいようかな、なんて考えていたぐらいだ。だからまともにバッターの方も見ずに靴についた土をのん気にはらっていた俺は、カキン! という気持ちのよい音を聞いて思わず顔をあげた。

「うっしゃああ! 八十島が打ったぞー!」

クラスメートの歓喜する声に俺はようやく事態を理解する。外野を振り返ると八十島が打ったであろう球が落ち、転がっていくのが見えた。

「嘘だろ…!」

すでにガッツポーズをしながら二塁に向かってきている八十島に追い立てられるようにして、俺は三塁、そしてホームへと走った。もちろん余裕綽々で先取点を取り、ランニングホームランをぶちかました八十島のおかげで二点目も入った。

「小宮ー! やったぞー!」

満面の笑みで俺のもとに駆け寄ってくる八十島。俺は奴に負けないくらいの笑顔と熱い抱擁で迎えてやった。

「いやあ、素人でもやればできるもんだな! 小宮のおかげだ」

「いや、普通はそんな簡単にできないもんなんだけどな」

ありえない八十島の身体能力に改めて驚かされる。野球が苦手という人間らしい欠点もあるのかと思った矢先のこれだ。完璧、というより反則すぎてたまに怖くなるぐらいだ。まあこの試合に勝つためには運動神経がいいにこしたことはないのだが。

「よーし、この調子でどんどん点入れてこうぜ!」

「「おー!!」」

八十島の活躍により一気に盛り上がりを見せる男共。ノリにのった我らが1のAチームは追加で2点を取り、1回表を好成績で終了させた。








1回の裏、守備。俺は女だてらに守備の要であるピッチャーを任されていた。野球部はピッチャーになれないため、小さい頃よく野球をしていたと言ったらあれよあれよという間にマウンドに立たされてしまったのだ。とはいえソフトボールなど投げた経験は皆無で、体育のときの練習でもボールとストライクを分けるのが精一杯だった。



「っ、…くそっ」

慣れない投球で1人目をなんとか三振にしたものの、2人目には簡単に当てられてしまう。しかしセカンドにいた八十島の活躍によりなんとかアウトをとることができた。

「ツーアウトー!」

なんとなく一度はしてみたかったツーアウトのサインをチームメイトに向かって大袈裟にかます俺。専門分野ではないため完璧なピッチングとはいえないが、自分としては合格ラインに達していた。


しかしつづく3人目、野球部らしい男に1ストライク2ボールになったところで思いっきり打たれてしまった。打球は高く上がり、センターに飛んでいく。しかしこの高さのフライなら外野がキャッチしてくれるだろうと、ほっと肩の力を抜いた俺だが、センターにいる奴の姿を見て絶句しヒステリックに叫んだ。

「唄子ぉ! てめぇ絶対とれよ!!」

「無理!」

その言葉通り、ボールは唄子のはるか頭上に落ちる。当然ながら敵チームに一点入れられてしまった。

「タイム!!」

そう吐き捨てるように叫んだ俺は、外野の唄子のところまで全速力で走る。打たれたのは自分じゃん、という突っ込みは無しだ。

「唄子てめえぇえ!」

「ひいっ」

殴りたくなる衝動を必死におさえ、胸ぐらをつかみあげるだけにとどめておく。ビビりまくる唄子に対し、俺は鬼の形相で怒鳴りつけてやった。

「いいか唄子、フライが上がったらとにかく下がれ! なにもそこまでってぐらい下がれ! 後ろに落ちるより前に落ちた方がマシだろ!? 頭いいんだからそれぐらい察しろよ!」

「………はい」

「あとボールが転がってきたときはグローブをしっかり地面につけろ! 股の下くぐらせたりなんかしたら許さねえぞ! それからボールを取るときは身体全体でキャッチしろ! 絶対腕だけで取ろうとするなよ! あんなの漫画の中だけなんだからな!」

「………はい」

「それからお前、バットかまえるときはもっと──」

「ピッチャー! いい加減にしろ、さっさと戻ってこい!」

ベンチの方から監督教師の大声が聞こえる。叱られてもまだ唄子に怒鳴りたりなかった俺はそれを無視した。だが

「ほら、戻るぞ小宮」

「なっ、八十島てめぇっ」

わざわざ外野までやってきて問答無用で俺をマウンドへと引きずっていく八十島。裏切り者! と俺が罵れば、奴は「試合が遅れたらサッカー出られないだろ」という正論で俺を一瞬にして黙らせた。


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