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ストレンジ・デイズ



俺達のチームは、八十島がじゃんけんに負けたことにより先攻となった。後攻とれよ! と運のない八十島の頬をつねっていたら、トップバッターである俺は審判に呼ばれてしまった。すぐさまバットを手に持ち、俺は小学生以来の感覚を思い出そうとバッターボックスの横で何回も素振りをする。ピッチャーは中学時代の野球部は駄目というルールだから、そうそう構えなくても大丈夫だとは思うのだが。
そうやって目の前のピッチャーの力量をはかっていたとき、とんでもなく嫌なかん高い声が俺の耳に聞こえてきた。

「お姉様ぁ! 頑張ってくださぁい!」

「……」

あの変態め、と視線を一瞬ずらした俺は、そのとんでもない光景に絶句した。

「ちょっとタイム!」

困惑する審判役の生徒を無視して強制的に試合を中断させると、俺は変態女、柊のもとまで駆け寄る。何を勘違いしたのかやけにデカいカメラをぶら下げた柊が、目を輝かせて俺を見上げてきた。

「おい」

「はい! なんです? お姉様」

「…お前の後ろにいる、この男共は何なんだ」

柊の後ろには、なぜか10人ほどのむさ苦しい軍団が控えていて、俺達の試合を見守っていた。中にはどう見ても1年じゃない奴も混じっている。

「彼らは今日子お姉様親衛隊のメンバーです! まあ、全員ではありませんが」

「親衛隊!? 俺の!?」

柊の後ろに並ぶ直立不動の男達を改めて観察する。つまりこいつら全員俺のファンってことか? …なんか鳥肌たってきたぞ。

「ご安心ください、お姉様。身の程を知らない不逞の輩からお姉様をお守りすべく結成された、お姉様のための特殊部隊です。困ったことがあればいつでもご相談くださいね」

「んなもんいらねえっ、俺は許可してねーぞっ」

「おいおい認められればいいかな、と思っています! ちなみに私は会員ナンバー001! 今日子お姉さま親衛隊隊長、ご存じ柊芽々であります!」

「なんで女のお前が隊長なんだよ…」

「それは私の愛が誰よりも深いからで……あっ、そこ! その線から出るなとあれほどいったでしょう!」

「スミマセン隊長!」

柊に注意された明らかに年上っぽいガタイのいい男は、直立不動のまま大声で謝る。まるでどこかの軍隊のようだ。

「はしゃいでいいのは応援の時だけですよ。私がお姉様とお話している時は慎みを持ちなさい」

知的な顔でもっともなことをいう柊に、お前が一番慎みを持てよと心の中で突っ込んでおいた。こんなちびっこい女が野郎共をしっかり統率しているのはすごいと思うが、一番暴走しそうなこいつは誰が止めてくれるんだ。

「バッター何してる! 早くしろ!」

柊に言いたいことはたくさんあったが、教師に呼ばれた俺は仕方なく打席に戻る。後ろからは脳天気な柊の声援が聞こえてきた。

プレイ再開の合図ともに振りかぶるピッチャーをしっかり見据える。さて、一球目はどうしよう。初めは様子を見た方が得策か。このピッチャーの投球練習をちらっと見たが、あまり警戒しなくてもいいように思えた。ストライクゾーンにくれば打つ、それでヒットにできるはずだ。

色々考えあぐねていた俺だが、ボールがピッチャーの手を離れた瞬間、そんなものはどこかに吹っ飛んだ。俺が女子だったせいか、とんでもなく気の抜けたボールがきたのだ。しかもストライク。これは打たせてもらうしかない。

「うおらぁ!!」

カキーンといい音をさせてボールが内野を抜けセンター方向へと飛んでいく。俺は全速力で一塁へ、そして迷うことなく二塁まで走った。

「よっしゃあ! 二塁打!」

「きゃああ! さすがですお姉様!」

できたら三塁までいきたかったが、初っぱなからツーベースヒットができたのだから上々だ。自称小宮今日子親衛隊の皆さんが異常な盛り上がりを見せるなか、俺はベンチにいる八十島にしたり顔で、やってやったぞ! と親指を突き出した。


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