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ストレンジ・デイズ




「なぁなぁ、なぁってば」

俺が机に突っ伏してこれ以上ない程うなだれていると、隣のバ会長が性懲りもなく絡んできた。相も変わらずイライラさせやがる男だ。

「呼んでんだから返事しろって、この乳なし女」

「変な呼び方すんなよ…」

乳なし女とはまた妙な悪口を。俺は男だからなんとも思わないが、もし本物の女ならセクハラもいいとこだぞ。

「お前ってさ、もしかしてハルキのこと好きなの?」

「……」

小声とはいえ本人を前にして何言ってんだコイツ、と思わなくもなかったが、トミーは食べるのに夢中でこちらに気づいてない。ここで別に好きじゃねえよ、というのは簡単だが、トミーにそれが伝わる可能性が大いにある。そうすると惚れさせにくくなるのは必須だし、弁当まで用意する理由も他に思いつかない。肯定しておくのが得策だろう。

「どうなんだよ、答えろって。好きなのか?」

「だったらなんだよ」

「…趣味悪っ」

「はぁ!?」

予想外の夏川の言葉にカチンときた俺は、無視するはずが思わず奴に突っかかってしまった。

「お前を好きになるやつよりずっといい趣味してんじゃねえか。そんなこと言われる筋合いねぇっつーの!」

俺の反論に夏川は馬鹿にしたような視線を寄越してくる。つくづく腹の立つ野郎だ。

「ハルキは水族館のイルカショー見てよだれ垂らすような男だぞ。もしコイツと雪山で遭難でもしたら1日待たず食われるね」

「なっ…」

…ちょっとリアルに想像してしまった。本当に食われてしまいそうなところが怖い。

「その点、俺なら3日は我慢できるぜ。ほーら俺と付き合いたくなってきただろ?」

「……」

確かに、無残に食われるぐらいなら夏川と付き合った方がマシ……いやいやそれは話が違うだろ俺! 会長に丸め込まれてどうする。口先だけでもトミーへの愛を貫かなくては。

「それでも…」

「ん?」

「お、俺の愛は変わらねぇ…!」

なんかクサいこと言っちまった! 夏川もドン引いてるし、もうヤダ消えたい。

「まったく、コイツの何がそんなにいいんだか。客観的に見たって、容姿も中身も普通に俺の方がいいじゃん」

「お前らはどっちもどっちだろ」

トミーを不思議そうに見つめる夏川につられて俺も食事中の奴をジロジロと観察する。確かに、トミーの何がよくて怜悧は好きになったのだろう。美形だし、性格も温和で優しいとは思うが、俺ならこんな胡散臭さそうな奴は嫌だ。

俺達に睨みつけられていることに気づいたトミーは、俺の弁当を食う手を止め顔を上げる。その眼差しが俺達の視線と交わった途端、奴は申し訳なさそうに微笑み食いかけの弁当を差し出した。

「あ、そっか。僕ばっかり食べてごめんね。はい、2人もよければどうぞ」

「「いらない」」

「あれ? そう?」

じゃあ遠慮なく、と再び俺の手作り弁当を食べ出すトミー。その見事な食いっぷりと脳天気さに俺と夏川は返す言葉もなかった。











その一週間程後のこと、俺は2回目となる数学の講習に出ていた。とはいっても、まだ八十島とじいさんは教室に来ておらず俺1人だ。なんだか俺ばかりがやる気満々みたいで嫌だ。まあ、この講習自体が俺のためなわけだが。
しかしじいさんはいいとしても、八十島はなぜここにいないんだ。まさか忘れてるんじゃないだろうな。

「はぁ…」

すっかり待ちくたびれてしまった俺は新鮮な空気を吸おうと窓に近づく。ふと下を見下ろすと広い中庭を挟んだ向こう側に八十島がいた。いつものように人に囲まれて談笑中だ。

「おいおいあの野郎、あんなとこで何して…」

友達と話してる暇があるならさっさと来やがれってんだ。怒鳴りつけてやろうかと思わず身を乗り出したとき、異変に気がついた。

まず、いつも笑顔のはずの八十島の顔が笑っていない。奴と一緒にいるのは雰囲気からして上級生か。いかにも柄の悪そうな連中に挟まれ、険悪なムードだ。


まさかアイツ、不良に絡まれてんの?


友達の多い良い奴というイメージしかない八十島も、敵意を向けられることがあるのか。信じられない気持ちで成り行きをしばらく観察していたが、八十島は奴らに連れられ校舎の裏へと消えてしまった。

「……マジで?」

これって、かなりヤバいんじゃないだろうか。リンチとか、カツアゲとかされてたらどうしよう。
あの八十島なら大丈夫だ、といくら自分に言い聞かせても不安がどんどん膨らんでくる。どうにも落ち着かないし、なんだか吐きそうだ。

「クソ…!」

すっげぇめんどくさいけど、このハラハラ感を残したままここで待ってるのは嫌だ。気がついたときには、俺は教室を飛び出して八十島のところへ走り出していた。


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あきゅろす。
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