ストレンジ・デイズ
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2時間目がもうすぐ始まろうかという中、教室に入るとクラスメート達の視線が俺に集中した。サボり魔の俺が遅刻したぐらいでこの反応はオーバーすぎじゃないかと思っていたら、俺に気づいた唄子が興奮気味に近づいてきた。
「キョウちゃん遅い! いったい何してたのよ!」
「秘密」
トミーに弁当をわたすなどと言ったらコイツは死ぬほどテンションあげてきそうだし、それがゲテモノ料理だと知れば全力で止められそうだ。
「実は、あたしキョウちゃんに言わなきゃならないことが…」
「ん? なんだよ」
「あれ…なんだけど」
そう言って唄子が指差したのは俺の机。だがそれは若干いつもと様子が違っていた。…というか、俺はいま唄子と喧嘩中だったような。あれ、なんで普通に話してんだ? まあ別にいいけど。
「……花?」
俺の机のど真ん中、花瓶に入れられ置かれていたのは、地味な小さい白い花。贈り物というよりはお供え物って感じだ。
「だ、誰だこんなことしやがったのは! あきらかにイジメだろーが!」
「あたしもそう思って片付けようとしたんだけど、横にこんな紙があったから…」
唄子が差し出してきた一枚の白い紙をひったくり、すぐさまのぞき込む。そこには達筆な字でこう書かれていた。
小宮今日子へ
これ以上、夏川様には近づくな。
夏川様親衛隊隊長、美作より
「………美作からだ」
「そうなのよ! 王道学園物には定番の親衛隊からの嫌がらせ! いやぁホントはキョウちゃんが来る前に片付けたかったんだけど、やっぱりキョウちゃんには現実を見て欲しくて。やっぱり親衛隊とは敵同士! 仲良くするなんてもってのほか─」
「み、美作が…俺に手紙を……」
「キョウちゃん、聞いてる?」
花瓶に入った花を愛おしそうに抱きしめる俺を見て、唄子が怪訝そうな顔して何かを言っている。だがフワフワ気分の俺に周りの声など聞こえはしなかった。
「唄子、この花の名前知らねえ? なーんか見たことあるんだけど」
「へ? あ、あぁこれはナズナよ。美作くんったら、きっと中庭に無造作に咲いてるヤツむしってきたんだわ」
「ナズナかあ…。いい響きだな」
「別名ぺんぺん草っていう雑草だけどね」
たとえ雑草であってもこの花の美しさは変わらない。かわいい漢次郎からの贈り物だからこそ、愛情がわくってもんだ。
「おはようございます、お姉様! まあ、お花がとてもよくお似合いですね。たとえ道端の花でも、お姉様と並ぶと高級花に見えます!」
うわっ、暑苦しいのが来た。
どこから湧いてきたのか突如現れた変態柊。アブナい熱視線を俺にビシビシぶつけてくる。
「登校早々、花をプレゼントされるなんてさっすがお姉様! ご存知ですか? ナズナの花言葉は『すべてを捧げます』というんですよ」
「えっ、そうなの?」
「はい! きっと贈り主はお姉様への熱い思いを、この花に込められたのではないでしょうか」
「なるほど…」
「ええっ、それはちょっと無理があるでしょ」
唄子の言葉と存在を除外して漢次郎がくれた花に酔いしれていたとき、脳天気な笑顔を浮かべた1人の男が近づいてきた。
「小宮、はよう」
「ああ?…なんだ、はちじゅーじまか」
「ヤソシマだって。今日の放課後の約束覚えてるか?」
「ああ。お前と一緒に校長んとこ乗り込むんだろ」
「そう言うと語弊があるけどな…。それに講習場所はこの教室。帰んなよー」
「帰らねえよ!」
「ははっ」
軽く笑いながら友達の元へ戻っていく八十島。その背中を見ていた唄子と柊が小声で叫んだ。
「きゃー! 八十島くん朝から超爽やかっ。あたしの前でもっとキョウちゃんと絡んでー!」
「何なんですっ、あの男。私達の今日子お姉様に馴れ馴れしい。お姉様は男なんかに軽々しく靡(なび)いたりしないんだから!」
「………」
いつから俺は柊のお姉様になったんだろう。まったく謎だ。
かなり両極端な2人の意見だったが、そのどちらにも俺は複雑な感情が芽生えた。
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