ストレンジ・デイズ
□手作り弁当大作戦
次の日の朝、ある作戦を思いついた俺は人気のない校舎裏に香月を呼び出していた。やってきた香月はゴキブリ退治の礼だとでも思っているのか、やけに嬉しそうだった。
「お久しぶりですキョウ様! 今日もいい天気ですね!」
「久しぶりって…一昨日会ったばっかだろうが」
「ここに入る前は毎日一緒にいましたから。あ、藤堂先生から聞きましたよ。講習の話。生物は俺が責任持っておしえますからね」
「ああ、そんなのがあったな。せっかく忘れてたのに思い出しちまったじゃねえか」
「一緒に頑張りましょうね、キョウ様」
「…はいはい」
拳を握って満面の笑みを浮かべる香月に、昨夜から機嫌の悪い俺はだんだんいらついてくる。俺がこんなに悩んでいるというのに、なんでコイツはこんな脳天気なんだ。
「…そんなことはどうだっていい。香月、これから言う話をよく聞け。もう遊びは今日限りで終わりだ。俺は本気で、トミーを惚れさせる」
俺のアタック宣言に、香月は思いのほか驚いた。いや、これは驚いたというよりショックを受けた顔だろうか。
「いきなりどうしたんですか? そんなに急がずとも、キョウ様なら…」
「うるさいっ、俺はさっさと奴に復讐して家に帰るんだよ。もうこんなトコやなんだ!」
これ以上、怜悧と離れて暮らすなんて耐えられない。そもそも怜悧と話せてないから、あんなよからぬ心配をしてしまうのだ。
「俺の綿密なリサーチによると、トミーは食い物に目がないらしい。そこで今朝方思いついたのが、この手作り弁当大作戦だ」
じゃん、と俺は香月の目の前に用意した弁当箱をぶらさげる。それを見た香月は顔を真っ青にさせて後ずさった。
「まさかキョウ様、それ作ったんですか…!?」
「当たり前だろ」
「嘘ですっ! キョウ様が…あの、自分と妹のためにしか動かないキョウ様が、他人のために手作り弁当なんてっ」
「てめえ…ケンカ売ってんのか」
頭を抱える香月に軽い蹴りを一発くらわす。だが香月はそんなこと気にもせず俺に詰め寄ってきた。
「まさか、それを富里君に食べさせる気じゃ」
「もちろんそのつもりだ」
「で、でもキョウ様の手料理は─」
「わかってるよ」
自分でいうのもなんだが、俺の料理ははっきり言って壊滅的に不味い。きちんと本を見て作ってもまったく違うものが出来上がってしまう。一度怜悧の誕生日にお手製のクッキーを焼いてやったことがあるが、怜悧はいっさい手をつけてくれなかった。裕司は二口目でダウンし、兄にいたっては食べた瞬間吐き出しやがったのだ。そんなクッキーを男らしく完食した香月はその日から一週間も寝込み、それからというもの真宮家では俺に料理させないという暗黙のルールができた。俺も興味本位で自分の作った物を口にしてみたが、とても人間の食べる物とは思えない味だったのを覚えている。
「安心しろ香月、それも計画の一部だ。俺の不味い料理を口にすれば、さすがのトミーも善人面で『美味しい!』なんて言えねえだろ。この機会にあいつの本性を暴いてやる。名付けて、激マズ弁当を食わせて化けの皮を剥がしてやろう大作戦だ」
「……はあ、なるほど」
香月はイマイチ乗り気になれないようだったが、俺はこの完璧な計画にすっかり酔いしれていた。これならいける。どっちに転んでも俺には得な話だ。
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