ストレンジ・デイズ
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夕食の時間、俺はいつもどおり唄子と共に食堂を訪れていた。昼、お前と一緒に飯は食わん! と豪語していただけに、なんとなく気まずかったが唄子はまったく気にしていないようだった。
「小宮ー!」
列に並ぼうとした俺の耳に、人混みの中から八十島の声が聞こえる。俺は背伸びしたり首を伸ばしたりして奴の姿を探し手を振った。
「何だよ八十島!」
「夕飯! サッカーで負けた方のチームの奢りって言ったろ。俺が小宮の分も注文しとくから、何が食いたいのか言って!」
そういえば…と体育の時間のことを思い出す。その件はすっかり頭から抜け落ちていた。
「カツ丼!」
俺が声を張り上げ注文を告げる。八十島は、了解と手で合図した。
「阿佐ヶ丘さんも、ついでだから俺が注文するけど!」
「あ、あたしは大丈夫! でもありがとう」
「おう!」
唄子は八十島に礼を言うと、ドンッと俺の胸を肘で小突いた。
「キョウちゃん、今のは可愛く『オムライス!』って言うところでしょ。それをカツ丼て」
「お前、カツ丼がオムライスより可愛くないって思ってる、それは偏見だぞ」
「だって可愛くないじゃん!」
大声で言葉を交わしているため会話は周りにまる聞こえ。唄子はそれを気にしているのだろうが、だんだんコイツのあしらい方がわかってきたかもしれない。
それからしばらくすると、八十島がやってきて俺に小さな機械を手渡した。例の料理が出来上がると音でおしえてくれる代物だ。
「すげぇよな、コレ。便利な世の中になったもんだよ…」
「ははっ、何言ってんだよ小宮。まさかこの学校きて初めて見たのか?」
八十島が俺に楽しそうに笑いかけた途端、隣にいる唄子からすごい気を感じた。奴はキラキラと瞳を輝かせながら、俺と八十島を交互に見つめている。
「ああそれから、勉強の話だけどな、了解もらったから。明日の放課後でいいか? 俺、明日は部活休みなんだ」
「ああ」
「良かった。念のために、小宮のアドレス教えてもらっていい? 連絡取ることあるかもしんないし」
「…別にいーけど」
八十島が嬉しそうな面して携帯を取り出す。俺のまっさらなフォルダに、香月と唄子とトミー以外の人間の名前が登録された。
「じゃ、また明日な」
そう言って八十島は大勢の友達の元に戻っていった。なんだかんだで奴との距離が縮まっているような気がする。不本意だが、唄子の狙い通りに事が進んでいるようだ。
「フラグがたってる…」
「は?」
横にいた唄子が、またわけのわからないことを言い出した。フラグって、いったい何の話だ。
「あたしの知らないうちに、めちゃくちゃフラグがたってる! いつ!? いつ八十島君とそんなに仲良くなったの!?」
「いや、仲良くねえし」
「嘘! 一緒に勉強する約束までしてんじゃん!」
「それは…」
本当のことを言えば、勉強など全然したくはなかった。だいたいあの爽やか秀才スポーツマンと一緒になんて、いくら俺でも絶対劣等感を刺激される。けれどあの状況でそんな本音、口にできるはずがない。
「ねえ、勉強って2人で? どこでするの? まさかあたし達の部屋!?」
「んなわけあるかよ。だいたい2人じゃねえし。教師同伴」
「教師って…藤堂先生?」
「違う違う。あー…名前何てったっけな。漢字おしえてもらったんだけど。たしか八十島と似たよーな感じの…とにかく校長だよ校長」
「四十万先生!?」
「おう、それ」
「いーいなあ!!」
俺から勉強会の話を聞いた唄子は握りこぶしを作り大声をあげる。予想以上の反応に、俺は少々驚いた。
「せこい、あたしも参加したい! でもキョウちゃんと八十島君の邪魔はしたくない…! ああっ、一体どうすれば」
「…お、俺先に席とってくるから。お前買ってこいよ」
なにやらぶつぶつと呟きながら頭を抱える唄子。これ以上相手にはしていられず、俺は早々に奴から離れた。
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