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ストレンジ・デイズ



「もうこの際キョウちゃん3つ出ちゃったらいいんじゃない。サッカーとソフトと、もう1つバレーかバスケットで」

ソフトボールの下に俺の名前が書かれる中、唄子が指をいじりながら妙な提案をしてきた。意欲的に俺へ意見する割には興味がなさそう、というか球技大会自体にやる気が持てないのだろう。

「でも確か、出られんのは2つまでじゃなかったっけ」

「それは男子の場合。女子は最低1つ、つまり裏を返せばいくつでも出場できるってこと。まぁ普通はそんなことしないんだけどね」

「おお、なるほど〜」

つまり、女である俺の場合はどんな種目でも出放題ってことか。考えてみれば当たり前の話だが、言われるまで思いつかなかった。
あれ、でも確か…。

「じゃあ4つ全部出ちゃえばいいじゃん。何で3つ?」

「あのねぇ、4つの競技はすべて同時進行で行われんのよ。時間がかぶったらどうすんの。何事も欲張ったら駄目」

「うーん…」

つまんねぇの、と思いながらも、俺はすでにどちらの種目に出るか考え始めていた。だが結論は悩むまでもなく、すぐに出すことができた。

「バレー、かな」

俺がそう決断すると、唄子はちょっとびっくりした様子でこちらを見た。

「意外、キョウちゃんってバスケっぽいのに」

唄子の意見に俺は少し驚かされる。バスケっぽいなどと言われたのは初めてだ。

「…はっきり言って、バスケは好きだ。小学校の時はバスケ部に入ってたし、昼休みもバスケばっかやってた。バレーの方が苦手な部類だな。体育の授業でしかやったことねぇ」

「だったら何でバレー?」

「見てわかんないか。体格だよ。た、い、か、く」

「体格?」

唄子の頭にたくさんの疑問符が浮かび上がる。女にはわからないかもしれないが、俺の最大のコンプレックス、それが身体だ。

「キョウちゃんそんなに背低くないよ。むしろ高い方なんじゃない」

「アホか。スポーツマンで170ないなんて、周りがよくても自分が許せない」

「えー…」

唄子はくだらない、といわんばかりの視線を俺によこしてくる。確かに身長ですべてを決めてしまうのはよくない。俺と同じぐらいの高さのプロのバスケ選手だっている。だが気になるものは気になるのだ。俺は特にジャンプ力がすぐれているわけでもないし、いくら鍛えても身体は見ての通り女装できるほどひょろひょろ。どうしたって接触の多い競技には向いていない。

「だってバスケなんかめっちゃ身長体格重視じゃん! リバウンド全然取れねえもん!」

「それを言うならバレーもかなり身長重視だと思うけど…」

「俺がバスケを嫌がってる理由はそれだけじゃねえ。俺は、俺は…っ」

「何?」

「両手打ちしか出来ないんだ!」



「………」

てっきり笑われるものだとばかり思っていたのに、唄子はそれらしい反応を一向に見せない。おそるおそる唄子の様子をうかがうと、奴は怪訝な顔で俺にこう言った。

「両手打ち、って何。それのどこが駄目なの」

「……う、嘘だろお前。両手打ちってのはシュートを打つとき両手使うって事! 常識じゃねえか」

「えっ、男子って片手で投げてんの!?」

「いや、そういう意味じゃなくて」

駄目だこいつ。本当に全っ然スポーツに興味持ねえんだ。

「いいか、男はシュート打つときボールに片手を添えるだけなんだよ。両手打ちってのは、つまり女打ち。野球で女投げするぐらい恥ずかしいことなの!」

「……ああ、だいたいわかった」

いや、きっと唄子にはわからない。中1のときの体育の時間、バスケ部の宮下に笑われた屈辱を俺は一生忘れられないだろう。それ以来、俺にとってバスケはちょっとしたトラウマだ。

「だってしょーがねーじゃん、両手打ちの方が入るんだから…。なんで男はみんな、あんなやりにくい打ち方するかな…」

「じゃあ全部ダンクシュートできめちゃったら? あれだったら女打ちとか関係ないよね」

「…お前バスケなめてんだろ」

先ほどから破天荒な事ばかり言い続ける、スポーツに関しては無知な唄子。奴はまたしても髪の毛をいじりながら本当に退屈そうにしていた。

「でもそれ、今回の場合関係ないじゃん」

「どゆこと?」

「だってキョウちゃん、いま女子だし。女打ちが普通でしょ」

「……あ」

恥ずかしいことに、唄子に言われて初めて気づいた。そうだ、俺はいま女だったのだ。むしろ両手打ちが普通だ。何も悩む必要はないじゃないか。

「はいはいはいはい、はーい! 俺、バスケやる!」

またしても挙手した俺にクラスメートの鋭い視線がそそがれる。体育委員の八十島は困ったように笑った。

「今はバレーの話なんだけど…まあ、別にいいや。小宮、3つもするのか? 女子だから問題ないけど大変じゃ…」

「大丈夫! 俺バスケも超得意!」

「…ああ、そっか。一応名前は入れとくよ」


その後、皆の意見を上手にまとめた八十島の活躍もあり、特に問題はないままホームルームは進行していった。最終的に、俺はサッカー、ソフト、バスケ全部に出場することが決定した。


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