ストレンジ・デイズ
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今日のホームルームの議題は、近々行われる球技大会の出場種目を決めることだった。体育の時間に俺を入れてくれた秀才爽やか君とその友人が教壇に立っている。
「あいつが体育委員だったのか…。くそ、俺がやりたかった役職を」
「八十島くんね。キョウちゃんがサボるからいけないんでしょ」
イケメン野郎を眺めながら勝手な文句を並べ立てる俺に、唄子がつんと言い捨てる。ずいぶんトゲのある口調だ。前方では八十島くんが紙を見ながら皆に説明している。
「えっと、種目は例年通りサッカー、バレー、ソフトボール、バスケット。もちろん1人1試合は必ず出ること。男子は2種目の参加登録が絶対。登録外からの代役は怪我人が出た場合のみ認められます。…啓太、他に何かあった?」
「当日欠場で人数足りなくなったら失格、とかじゃねえの。しっかりしろって善」
「おいおい、真面目にメモとってたのは俺だろ?」
「俺は全部記憶してあるんですー」
「嘘つけ」
体育委員の2人がもめている間、クラスじゅうが何に出るかあちこちで相談しあっている。そんな中、俺は黒板を見つめながら1人ほくそ笑んでいた。
「ふふ、ふふふ…」
「なに笑ってるの? キョウちゃんキモい…」
「うっせえ」
「いてッ」
失礼なことをほざきやがった唄子にデコピンを一発くらわせる。額をおさえてこちらを睨む唄子に、俺は笑顔で教えてやった。
「いいか、球技大会は俺が1年で1番輝く時だ。まぁ、体育祭は別としてな。このクラスは勝つぜ。なぜなら、ここには俺という勝利の女神がいるからな!」
自慢じゃないが、中学時代俺がいたクラスは3年間連続で優勝した。まぁ、サッカーでのみの話だが。
そんな風に過去の栄光を並べ立てる俺に、唄子は白々しいほどの満面の笑みを返した。
「すごい自信ね。でも残念、優勝は無理よ」
「はぁ? 何でだよ!」
「うちの学校にはSクラスがいるから」
「Sクラスぅ?」
唄子の言葉に俺は首をひねる。確かうちの学校はAからFで終わりじゃなかっただろうか。
「スポーツ特待生のみで構成された特技クラス、通称Sクラス。スポーツ推薦ってやつよ。キョウちゃんもサッカー上手なんだったら、どこかの高校からきたんじゃない?」
「あ、ああ…」
確かに俺はサッカーで推薦をもらい、それを使って高校に入学する予定だった。その名誉を妹のために投げ捨てて、この学園に入ったのだ。自分で選んだことをうじうじ悩んだりするのは嫌いだが、俺はその事をほんの少し後悔していた。
「Sクラスが球技大会優勝を逃したことはないわ。彼らからしてみれば、勉強ばっかのガリ勉坊や達にスポーツでは負けたくないってわけ。毎年、体育系の勝負事は2位決定戦になるのよ」
「こ、今年はどうなるかまだわかんねーだろ」
「わかるわよ。キョウちゃん以上の運動神経の持ち主がゴロゴロいるんだから」
「俺以上…だと?」
唄子のその何気ない言葉は、俺のはらわたを煮えくり返らせた。この時の俺の心境を一言でいってやるとすれば、
ずばり、カチーンだ。
「えっと、じゃあまずサッカーやりたい人――」
「はいはいはいはい、はーい!」
八十島の言葉にいち早く反応した俺に、クラスの連中の視線が集まる。俺を見て瞬きを繰り返す八十島が、遠慮がちに尋ねてきた。
「小宮、サッカーやるのか?」
「だから手ぇ挙げてんだよ。文句あっか」
「まさか、やる気満々で嬉しいよ。小宮がいれば百人力だ」
女ならイチコロにされそうな笑みを見せる八十島に、クラスの一部分から黄色い悲鳴が聞こえる。あれ、確かあの集団は担任のファンじゃなかったっけか。
「他には誰がやりたい? 最低でも、みんな2つは選手登録しなきゃいけないからな」
「善は決定だろ〜。なんせSクラス以外で唯一ベンチ入りしてんだから。期待してんぜっ」
「わかってると思うが、お前もやるんだぞ、啓太」
「へいへい」
八十島の手によって俺の名前が黒板に書かれる。周りの様子から察するに、どうやら現役のサッカー部は体育委員の2人だけのようだった。
「おいおい、このクラス部員少なすぎじゃね? こんなんじゃ勝てねえよ」
「うちのサッカー部、練習がかなりキツいのよ。もっと下のクラスの方が多いんじゃないかしら。A組だと、勉強との両立とか色々あるし。中学時代にやってた人ならいるだろうけど…。でも、どのみちサッカーで勝つのは無理。ここは全国大会の常連で超強豪校なんだから。狙うならソフトボールね」
「何で?」
「うちには野球部がないもの。もちろんソフトボール部もね。少し前に廃部になったから。でも言っとくけど、それでも難しいわよ。スポーツできる人は何やらせても上手いんだから」
唄子の意見はもっともだ。だがそうなれば経験者、未経験者の有無に関わらず純粋に運動神経だけで勝負できるのではないか。いや中学時代には野球をやっていた奴がいるかもしれないが、とりあえず現役はいない。
「じゃあ、次にソフトボールをやりたい人――」
「はいはいはいはい、はーい!」
「……小宮は、ホントに気合い入ってるなぁ」
またしても迷わず手を挙げた俺に八十島は苦笑する。奴の言うとおり、俺は唄子を見返すため球技大会に俄然、闘志を燃やしていた。
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