ストレンジ・デイズ
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「そんな…、それは確かな情報なんですか?」
「ああ、信頼できる筋からのな」
恐れと怒りのあまり立ち上がった俺は立ち眩みがした。
「どうして響介様が? 旦那様の子供は響介様だけではないのに」
「そ、それは……」
旦那様は後悔の表情を浮かべ、もごもごした口調で白状した。
「…私が響介のことを、会社でよく話すんだ。それで…それが奴の耳に入って……」
「なっ」
俺はやっと合点がいった。旦那様は昔から響介様を溺愛していた。それが仇になったのだ。
「旦那様が響介様ばかり可愛がるからいけないんですよ!? だから俺は何度も平等に扱うべきだと言ったのに!!」
「い、言い過ぎだぞ! だったら訊くが香月、お前は高校生のくせに族の総長してた息子や、父親の部下を知らない所で誘惑する娘を愛せるのか!?」
「…………………」
「…………いや、すまん…、今のは言い過ぎた…」
俺の責めるような口調に、さすがの大企業社長も熱がこもってしまったようだ。
「とにかく、響介に危険が迫っていることに変わりはない。ここは危険だ。一刻も早く離れなければ」
「響介様には話さないんですか」
「…ああ。怖がらせたくないんだ」
旦那様は話を続けた。
「この話を部下にしている時に怜悧に聞かれていたようでな、怜悧が響介を守るいい方法があると言ってきて…」
「それで女装、って訳ですか」
頷く旦那様を俺は複雑な気分で見ていた。確かにあの完璧な女装では昔からの知り合いならともかく、普通の人間が響介様と気づくことはないだろう。ここにいるよりずっと安全だ。だがどうしても怜悧様にしてやられた感がぬぐえないかった。
「私は響介の居場所を残すようなものを全て抹消した。写真もなにもかもだ。いま響介は、書類上には存在しない」
俺は旦那様の言葉にかなり驚いた。彼がそこまでするということは、確実に響介様に危険が迫っているということだ。
「響介の最神学園入学を知る者は響介の家族、そしてお前と学園関係の一部の人間だけ。誰にも漏らしてはならん」
「承知の上です。……それでその田山というのは、どういう男なんですか?」
旦那様は重い口どりで話し始めた。
「詳しいことはまだわからん。なにせいま奴は行方不明だからな。捜索中だがめぼしい情報はない。情報が入りしだい連絡する。後で写真を見せよう」
俺は傷心の想いで頷いた。もし響介様の身になにかあったらいったいどうすればいいんだ。俺は生きていけるだろうか。こんなときに響介様のために何も出来ない自分が、情けない。
「香月」
俺の気持ちを察したかのように、旦那様は口を開いた。
「お前に頼みがある」
俺は無言で旦那様の言葉を待った。どうしてだか、胸が激しく疼いた。
「お前にも最神学園に行って欲しい。教師として、一番近くで響介を守って欲しいんだ」
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