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ストレンジ・デイズ



魚の煮物とサラダをペロリとたいらげた富里は、最後に残されたカツ丼に手を伸ばしながら学園の簡単な説明をしようと言ってくれた。

「ここの食堂はカツ丼が絶品なんだよ! 毎日食べても飽きないくらい。和食の他にもイタリアンや中華、たくさんの種類の料理が楽しめるんだ」

「…はあ」

隣に座る漢次郎は話を熱心に聞いているようだが、俺からすれば食堂の話しかしないので退屈だ。それは夏川も同じだったようで、昼食を終えたらしい奴は俺の可愛い美作を抱き込んだ。

「こんな奴無視しろよ漢次郎〜。お前は誰の親衛隊だっつうの」

「夏川さま! どうかその名は口になさらないで…!」

「別にいいだろ。なぁ小宮、こいつの名前、漢次郎っていうんだぜ! なぁー漢次郎?」

「や、やめてくださいっ」

「夏! 人の名前を馬鹿にするなんて最低だよ! 今日子ちゃんも何か言ってやって!」

「え? お、俺?」

すいません。ついさっきまで俺も思いっきり笑ってました。

「つか、お前も変な名前のくせに…」

「俺はこの名前が気に入ってるからいいんだよ」

俺の指摘に気分を害することなく、会長は漢次郎を飽きもせずからかい続ける。てゆーか、その名前気に入ってたんだ…。

嫌がりつつも頬を染める漢次郎に、どうにも面白くなかった俺は夏川から漢次郎を奪い取ってやった。

「気安く触るなバ会長。こいつは俺のだ」

「誰がいつお前のになった!」

顔をさらに赤くして必死で俺から逃れようとする美作。絶対放してなんかやるもんか。

「うーん…、俺は一体どっちに嫉妬すりゃいいのやら」

なにやら余裕のある反応を見せた夏川は、顎に手をあてながら何かしら考えているようだった。そのしれっとした態度は俺をさらにいらつかせる。

「夏川さまッ! この女なんとかしてください!」

「よし、きた」

夏川はテンポ良く返事を返し、誰が反応するよりも早く俺を美作から引き離して、いとも簡単に立ち上がらせた。

「な、何すんだっ」

「この前のおかえし」

「は――?」

気づいた時には、すでに俺の身体は床に叩きつけられていた。夏川の足が俺の腹に直撃したのだ。

「夏川さま!?」

「何してるの、夏!」

呆気にとられる美作に、険しい表情で立ち上がる富里。そんな2人を見て夏川はつまらなさそうにため息をつき、腹を抱えてうずくまる俺に向かって足を踏み出す。だが、それと同時に美作は俺に覆い被さった。

「やめてください夏川さま! これ以上は…!」

「安心しろ、お前のためにやったんじゃない。俺はやり返さねえと気が済まねぇたちでな」

「それって……、でもこいつは女なんですよ!?」

「知るか。死なねえ程度に手加減しといたからいいだろ」

事態が飲み込めず放心する俺に、夏川は勝ち誇ったような腹の立つ笑みを見せる。漢次郎の俺の肩を抱く腕に力がこもった。

「もう蹴らねえよ。これでチャラにしてやる。じゃあな、小宮今日子」

「夏!」

俺の嘘っぱちの名前をわざとらしく呼んだ夏川は、富里の声を無視して満足げに食堂を去っていく。その場にいた全員が俺達を見ていたといっても過言ではなかったが、皆一様に驚き困惑していた。美作は動かない俺の身体を抱き起こし、悲しみの表情を浮かべた。

「まさか夏川さまが女を蹴るなんて…。早く保健室に行った方がいい」

よほど心配なのか、漢次郎は俺の腹ばかり不安げに見ている。確かに本当に女なら一大事だが、俺は正真正銘の男だ。そこまで騒ぎ立てるほどのことでもない。

「いつもは女性に手をあげるような方じゃないんだよ。きっと何か理由が……どうした?」

「……こ…す」

「え?」

「…あんの野郎、ぜっってえコロス!」

びっくりしすぎたせいで失われていた怒りが今になって沸々と湧き出してくる。なんだあれ! 何様のつもりだ! よくこんな可憐な美少女にミドルキックなんかできるな!

もとはといえばアイツが全部悪いんだ。しかもまた本当に手加減してるのが腹立つ。勢い良く蹴飛ばされたものの、あまり痛みはない。お前みたいな女もどきのカマ野郎には、これくらいの力で十分だろ? ってか!(言ってないけど)

「小宮、お前保健室…」

「んなもん行かねぇよ! 女扱いすんな!」

「…女じゃんか」

あいにくだが、俺もやり返さなければ気が済まないたちの人間だ。公衆の面前で掻かされたこの恥を、絶対に忘れはしない。美作の計らいをはねつけ、俺は夏川への報復を胸に誓った。


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