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ストレンジ・デイズ



食堂についた俺達は食券を買うために券売機から連なる長蛇の列に並んだ。トミーはやはり目立つのか、ギャラリーの数が先ほどよりも圧倒的に多い。胸くそ悪ぃなと思いつつ、トミーの手前俺は丁寧な言葉づかいを心がけた。

「人の目が多くて、やっぱり少し落ち着きませんね」

「今日子ちゃん可愛いから、みんな仲良くなりたいんだよ」

「……」

こんなセリフがさらっと言えるあたり、トミーはやはりタラシなのだと思う。こいつは俺を助けてくれたようだが、はたして好意を持った人間だからなのか、女子だからとりあえず手を差しのべたのか。どうも後者なような気がしてならない。もし奴が本物の天然だとすると、本人に自覚はなかったのかもしれないが。

「あの…さっきは助けてくれて、ありがとうございました」

その辺りを確かめたくてトミーに礼を言うと、奴はメニュー表から視線をはずし俺に向かって微笑んだ。

「余計なことじゃなかったなら良かった。中には危ない人もいるから気をつけてね」

「…はい」

どうやら、さっきの一連のやりとりはすべて計算ずくだったのようだ。あざといというか何というか、そのおかげで俺が救われたのは事実だが。…富里ハルキ、この男やはり侮れない。









食堂のおばさんに注文し終えた俺が連れて来られたのは、入り口から一番離れた場所にある生徒会役員専用の席だった。そんな場所に一般生徒である俺が座ってもいいのかと尋ねると、トミーは頷いて友達ならいいんだよと答えた。指定席なんて、この混雑した食堂では羨ましすぎる特権だ。ちゃっかり座らせてもらってる俺がいうのもなんだが、生徒会は優遇されすぎだと思う。

「トミー先輩は、いつも食堂で食べてるんですか?」

「うん、大抵はね。せっかくある席を使わないともったいないし」

富里はおばさんからもらった機械をいじりながら、買っていたらしいパンをテーブルに広げる。奴の持つ小さな機械はアラームになっていて、注文のメニューが出来上がったら鳴りだすたいへん便利な仕組みらしい。トミーからその画期的なシステムを聞いた俺は思わず感心してしまった。

しばらくの間待っていると、ピーーという音がして俺は注文したカツ丼を取りに行った。ついでにお茶を汲んで戻ってみるとそこにトミーの姿はなく、おそらくは俺と入れ違いに呼び出されたのだろう。奴が戻るまで待とうと椅子に座った俺の目の前に、信じられない光景が飛び込んできた。

「お待たせ、今日子ちゃん」

「………」

満面の笑みで戻ってきたトミーは、片手にオムライス、チャーハン、もう片方の手にカツ丼と魚の煮物それにサラダを持っていて、どうやったらそんなにいっぺんに運べるんだと訊きたくなるような有様だった。唖然とする俺の目の前に、奴はウェイターの様に慣れた手つきでそれを並べると、満足げに椅子に座った。

「わ、僕の分もお茶とってきてくれたの? ありがとう」

「いや…あの……」

元々買っていたパンもあいまって、テーブルの上はすごいことになっていた。見てるだけで吐きそうになる。

「…これ、本当に全部1人で食べるんですか?」

「うん、夜まで何も食べられないし。今のうちお腹膨らましとかないと」

「……すごいっすね」

つかみどころのない奴とは思っていたが、大食漢にもほどがある。このほっそい身体のどこにそんな大量の食い物が入るっていうんだ。

「でもこの大食いのせいで、1人でご飯食べることが多くてさ。夏なんかこの前、『お前が食べてるの見ると食欲が失せる』って言ったんだよ。ひどいと思わない?」

「…夏?」

「季節の方じゃなくて、名前。生徒会長の夏川夏。見たことあるよね」

俺の間違いを指摘したトミーの言葉に、俺は大きく頷いた。会長は忘れようはずもない最低チャラチャラ男だ。やはりトミーとあの男は友人関係にあったのか。嫌なコンビだ。

「トミー先輩、会長と仲良いんですか」

「うん、もう腐れ縁かな。中等部からの生徒会繋がりでね。僕、副会長だから…あっ噂をすれば」

突然、俺の肩越しに大きく手を振り出す富里。この上なく嫌な予感がした俺は、振り返るのをためらった。

「夏〜! 今日は食堂で食べるの?」

「まあな、おめーは相変わらず馬鹿食いしてんのか」

フレンドリーに話しかけた富里に対して、冷めきった返事をする男。間違いなく夏川夏だ。奴がすぐ後ろにいる。やばい、気づかれないように早く顔を隠さなくては。

「で、何だってお前と小宮今日子が一緒にランチなんかしてんだ?」

「ええっ、バレてる!?」

「そりゃバレるだろ」

会長に見つかった瞬間、食堂になんか来なきゃ良かったと心底後悔した。逃げるわけにもいかず、観念した俺はぶすっとした表情のまま振り向いた。


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あきゅろす。
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