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ストレンジ・デイズ
□魅惑のランチタイム


飯食う気もそぞろな昼時。放課後担任に何を言われるかわからないため、俺はめずらしくも四時間目まで真面目に授業を受けていた。そのせいですっかり疲れきった俺に、唄子が遠慮がちに話しかけてきた。

「……キョウちゃーん。大丈夫?」

「授業ってしんどい…、何言ってるかわからん…」

「休んでばっかいるからよ」

唄子はムカつくが、確かに一理ある。これからはもうあまり休まない方がいいかもしれない。留年なんて絶対ごめんだ。

「早くご飯食べに行きましょ。今日は芽々ちゃんとあんずちゃんも一緒に食べない? 中庭で」

「はぁ!? 何だよそれ、絶対やだ!」

唄子の恐ろしい提案に、俺は全力で拒否した。そんな恐ろしいランチ、誰が好き好んでするもんか。

「えー、そんなこと言わないでさ。もう約束しちゃったし」

「勝手にすんなよ、んな約束。あいつらと食うぐらいなら俺は1人で食べるね」

何だかんだいっても、やっぱり唄子は女だ。女子特有の集団意識があるから、自分が言えば俺も一緒に来ると思ってるんだ。こいつの考えてることはわかりやすい。柊にごり押しされたか、俺に友達を増やそうと思っているかのどちらかだ。

「じゃあ、あたし断ってこようか? キョウちゃんがそこまで嫌っていうなら…」

「いいよ、そんなことしなくて。お前だって女同士の方がいいだろーし。別々で食おうぜ」

「ちょ、キョウちゃん!」

俺はぶっきらぼうにそう言い捨てると、財布を片手に勢い良く立ち上がった。唄子が止めようとしていたが俺はそれを振り切り、無視して教室を足早で出て行った。









俺は食堂に向かうため、1人廊下を歩きながら考え込んでいた。少し唄子に言い過ぎただろうか。いや、1人で全部決めやがったあいつが悪いんだ。そもそも唄子がルームメートで共犯者だからって、一緒に昼飯食べなきゃいけない訳じゃない。あいつがいなくたって、別にかまわない。1人には慣れている。

「……くそ」

しかしこの女のいない学校では、俺は予想以上に目立つ存在だった。いくら1人に耐性がついているとはいえ、こんなたくさんの視線にさらされながら孤独に飯を食うのは耐え難い。しかも中には悪意のこもった視線も混じっていて、どうやら俺を疎ましく感じている奴らもかなりいることを嫌でも認識してしまう。

頼むからややこしいことにはなりませんように、と念じながら歩く俺の前に、見知らぬ3人のチャラい男達が現れた。

「あのさぁ、もしかして1年の小宮さん?」

「……だったら何だよ。どけ、邪魔だ」

「うっわ、意外と毒舌! あと意外と声低い!」

「せっかく顔可愛いのに〜口悪いともったいないって!」

「小宮さんってA組っしょ、てことは頭もいいんじゃん。才色兼備ってやつ? やっぱ彼氏とかいんの?」

「………」

おそらくはデフと思われる派手な集団に囲まれ、壁際に追い詰められる俺。どうしよう、どうやってこいつらを追っ払うか。本当は全員蹴ってやりたいが、そんなことしたらやり返されそうだ。スカートでもめくってやれば、こいつらびっくりして逃がしてくれるだろうか。

「ていうか小宮さん、いま1人? だったら俺達と──」

「あっ、今日子ちゃん!」

聞き覚えのある声が俺の名前を呼ぶ。このある意味で重い雰囲気には、似つかわしくない明るい声。顔を見なくてもわかる。俺の天敵、富里ハルキだ。

「久しぶり〜、校舎一緒なのに階が違うとなかなか会えないね。どう? 学校には慣れた?」

「ええ、まぁ…」

空気がよめないのか、それともわざとよんでいないのか。不良3人組に凝視されながら、トミーは笑顔で俺達の間に割り込んできた。

「……あれ、もしかして僕のこと覚えてない?」

「いや、覚えてます…」

俺の曖昧な返事に不安になったのか、トミーは首を傾ける。だが機嫌が最高潮に悪かった俺には、奴に媚びを売る心の余裕はなかった。

「いつも隣にいる友達は、今日は一緒じゃないの?」

「え、唄子のことですか? 今日はあいつ違う奴らと……つか友達じゃねえし!」

「もしまだ食べる相手見つかってないなら、一緒に食べない? 僕もちょうど1人なんだ」

「は…?」

1人で勝手にどんどん話を進めていくトミー。つか、こいつが昼飯1人? 学園の人気者じゃなかったのかよ。

「もちろん今日子ちゃんが良ければ、だけど。どうかな」

「……」

憎き敵である富里とランチなんて本来ならばお断りだが、この目の前の得体の知れない連中を追っ払う口実になる。しかも、トミーとのランチは奴を惚れさせる絶好の機会だ。これに乗らない手はない。

「食べます! 俺でよければ」

「本当に? 良かった」

本来の目的を思い出した俺は、快くトミーの提案を受け入れる。奴は心底嬉しそうな笑顔を見せると、その表情のままチンピラ3人組の方をに視線を移した。

「もしかして、今日子ちゃんに用だった? 僕、邪魔しちゃったかな」

「い、いや! 全然!」

「でも、何か話してたみたいだったから…」

「たいしたことじゃねえよ! 富里が気にすることないから」

「そうそう! 俺達もう行くし!」

ヤンキー達を笑顔で一蹴したトミーは、走り去っていく3人に手まで振りだす余裕を見せた。怖いもの知らずとはこのことか。というかあいつらも何であんなに物わかりがいいんだ。

「今日子ちゃん、食堂でいい? 人たくさんいるけど」

「や、俺はどこでも。でもトミー先輩、それ…」

トミーは片手にパンらしきものが入った袋をぶら下げている。わざわざ食堂に行かなくても、俺もすぐ近くの購買で何か買えばすむ話じゃないのか。

「僕のことはいいからいいから。じゃあ行こうか」

俺の指摘を気にせず食堂に向かって歩いていく富里。俺は相変わらずの人の視線を感じながらトミーの背中を追った。


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