ストレンジ・デイズ
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「俺にも友達ができたぞ唄子! 意外と簡単だったな!」
「美作くんにその気全然ないけどね」
とにかく、これでもう友達を作れ作れとうるさかった唄子にぶつぶつ言われる心配はない。それに美作なら唄子も変な妄想してこないし、まさに一石三鳥だ。
「…そういや忘れてたけど、キョウちゃんって何位だったの?」
唄子の言葉は、浮かれきっていた俺の心を一気に深い谷底へ落としてくれやがった。
「まだ見てない」
「やだ、何その顔。心配しなくてもそんなに悪く無いわよ。なにせうちの学校にはデフがいるんだから。せいぜい真ん中ぐらいじゃない?」
「ああ、それもそうか」
すっかり沈んでいた俺は唄子の言葉に気を持ち直した。確かにデフと呼ばれる不良がいるなら、俺はそこまで悪くないはずだ。
「それにスポーツ推薦の人はそんなに頭良くないしね。あたし140位から上さがすから、キョウちゃんはそっから下さがして」
「おうよ」
唄子に言われた通り俺は自分の名前を注意深くさがしたが、困ったことに全然見つからない。おいおいこれ以上下にいくとさすがにヤバいぞ、と不安になっていくも俺の名前はどこにもなかった。唄子もそれ以上上にあるわけないだろ、というとこまできている。嫌な予感がした。
「…あっ」
予感的中。自分の名前を見つけた俺は、いま見た記憶を消去できないかと頭を抱えた。…こんな、こんなのありえない。
「おーいキョウちゃん! こっちにはなかったんだけど…見つかったー?」
うなだれる俺に気づいた唄子が目の前の順位表を見つめる。俺の名を見つけた奴は、目をまん丸くさせて叫んだ。
「ブービーじゃん! キョウちゃんってそんなにアホだったの!?」
「アホっていうな!」
そう、俺の順位は最下位から数えて2番目。おそらくはA組始まって以来の最悪な点数を取ってしまったのだ。
「ろくに勉強してないデフに完敗してるじゃない。これでA組だなんて…」
「で、でも中学んときは平均ギリギリあったんだぞ。だから俺はアホじゃない!」
中学時代の俺は、定期テストがあるたび香月におしえてもらっていたのだ。そのおかげで成績はそう悪くはなかった。
にもかかわらず、この有り様は何だ。仮にも超進学校とはいえ不良も多いんだ。俺がそんな奴らよりもアホだなんて…いや、待てよ。
“ここって高校から入学するのは死ぬほど難しいんだけど、中学受験はそうでもないのよね。金さえあれば入れちゃう感じ”
俺の頭の中でいつかの唄子の言葉がよみがえる。中学受験ならアホでも入れるという意味だろうが、言葉通り受け取っていいものか。俺の考えるアホと唄子の考えるアホでは、基準に大きな違いがあるのではないか。もしかしたら、ここの不良はもともとの頭の出来が良い連中ばかりなのかもしれない。だって考えてもみろ、デフ全員が馬鹿の集まりだとしたら、この学園の偏差値があんなに高いわけがない。
俺はデフがいるから大丈夫、と高を括っていたのだ。こんなの全然聞いてない。1人うなだれていた俺に対して、呆れた表情の唄子が優しく肩を叩いて励ましてくる。
「「うーたこちゃーん!」」
床に膝と手の平をついて絶望する俺と唄子の前に、変態柊とメガネ女が現れた。ぶんぶん手を振っていた柊は俺を見つけると嬉しそうな顔でこちらに駆け寄ってきた。
「芽々ちゃん、テストどうだった?」
俺に話しかけようとした柊に唄子が問いかける。床に這いつくばる俺を不思議そうに見ながらも、柊は唄子の質問に答えた。
「私は25位〜。これ以上落としたらヤバいかもね。唄子ちゃんは?」
「…13」
「いいじゃん! 浮かない顔だからもっと悪いのかと思った」
「まあね…、…あんずちゃんはどうだった?」
「えっ、と…3位です」
「「えーっ、すっご〜い!」」
俺の目の前で自慢大会かお前らはと言いたくなるような会話だ。次にくる言葉が俺には手に取るようにわかる。
「で、お姉様はどうだったんですか?」
ほらきた。ほんっと柊、お前は余計なことしか言わないな。
「キョウちゃんはね、最下位から2番目だったのよ」
「「えっ」」
俺達の周りに嫌な沈黙が流れる。この2人もまさか俺の点がそこまで悪いとは思っていなかったのだろう。
「…信じられない」
「……だ、大丈夫ですよお姉様! 女は頭じゃありません、顔です!」
「……」
茫然と立ち尽くすメガネと一応は俺を励まそうとする柊。ますます落ち込むばかりの俺に、後ろから追い討ちをかける声が響いた。
「こ〜み〜や〜〜!!」
「ひっ」
ドスのきいた声に恐る恐る振り向くと、そこには鬼のような顔をした担任の姿が。テストの結果を知ってか相当怒り狂っているらしい。
「今日の放課後、職員室に来い! いいな!」
「…………はい」
落ちるところまで落ちきっていた俺は、担任の言葉におとなしく頷くしかなかった。
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