ストレンジ・デイズ
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「待て! 何してるんだお前たち」
「た、隊長…」
タイミングのいいことに、その声の主は俺がちょうど探していた美作漢次郎だった。奴は可愛い顔をしかめっ面にして、俺の胸ぐらを掴んでいた男の手を引っ張りあげた。
「手は出すなと言ったはずだ」
「で、でも隊長、こいつは夏川様を…。他の奴らはみんなボコボコにしたのに、何でこいつだけ特別扱いなんですか!?」
「特別扱い?」
美作は反抗的な隊員Aを睨みつけると、唖然としていた俺の方へ手を向ける。
「お前達、よく見ろ! こいつは女だぞ! 女に手をあげるなんて、男として恥ずかしいと思わないのか! 顔に傷でもついたらどうする!」
隊長のまさかの発言に、シーーンとなる隊員達を背にして美作は俺を真っ直ぐ見据えた。
「うちの隊員が悪かった。お前のことは気に入らないけど、女である以上絶対に怪我はさせられない。こんなことは二度とないようにするから、お前ももう夏川様には近づく──」
「漢次郎ぉお!!」
「ぐぇえっ」
俺は美作の名前を盛大に叫びながら、その小さな身体に抱きついた。前回会ったときも思ったことだが、やっぱりこいつは生粋のフェミニストだ。男は躊躇わずに殴れても、女に手はあげられないんだ。
「漢次郎! お前漢次郎っていうんだろ!」
「なんで僕の名前…っ、呼ぶな! その名前は大嫌いだ!」
「かーんじろー!」
「やめろ〜〜っ!!」
本気で嫌がる漢次郎の頭をむちゃくちゃにしてやる。だが可愛い漢次郎へのスキンシップは、唄子と夏川親衛隊によって邪魔された。
「キョウちゃん、いい加減にしなさい!」
「小宮今日子! 今すぐ隊長から離れろ!」
ずるずると反対方向に引きずられていく漢次郎と俺。名残惜しく思っていた俺に向かって、青い顔をした漢次郎が叫んだ。
「ぼ、僕にこんなことしてただですむと思うなよ! 毎朝お前の机に花供えてやる! 下駄箱に不幸の手紙とか入れてやる! 絶対絶対、許さないからな!」
大勢のギャラリーの前で低レベルないじめ宣言をした漢次郎は、隊員達と共に一目散にこの場から逃げていく。1人残された俺は美作の言葉に軽く衝撃を受けながらも、ある決意を固めていた。
「…唄子、俺、決めた」
「………何を?」
「美作を友達にする。つーかもう友達になった」
「はぁあ!?」
耳をつんざくような唄子の絶叫にも動じず、俺は美作のことだけを考えていた。あの言いたいことを少しの躊躇もなしにぶちまける身勝手な性格、それでも自分の信念は貫く男気。それになにより、うっとうしい夏川信者から俺を救ってくれた。奴と親しくしないで誰と親しくするっていうんだ。
「友達なんて駄目だってば! 彼は親衛隊隊長なのよ!? 総受け主人公にとっては敵! だいたい彼は隊員を使って会長に近づく男達をリンチしてる張本人なんだからっ。いったい美作君のどこがいいのよ!」
「顔」
「顔ぉ!?」
唄子の金切り声が一段と酷くなった。こんなに人の目があるところで騒がれたくないんだが。
「顔って何!? 美作君男なのよ!?」
「んなの関係ねえよ。ありゃうちの怜悧に迫るレベルだぞ。見てるだけで癒されんだろ」
「……ばっかじゃないの」
唄子はそう言うが、俺は追いかけられると逃げたくなり、逃げられたら追いかけたくなる性分だ。なんとなく、この学園に入学してから追いかけられてばかりだった俺には、美作の反応はかなり新鮮だったのだ。
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