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ストレンジ・デイズ



校舎入り口付近のロビーに設置された大きな貼り紙の前には、すでに黒山の人だかりができていた。だがそんな人混み行きたくないよーと抵抗する俺を唄子はかまわず引っ張っていった。

「おいテメェ、何でわざわざこんな人の多いときにっ」

「これぐらいで文句言わない。ホームルーム終わった後来てたら、もっと混んでたわよ。あたし達のクラスは体育だったから見に行けなかったけど」

「にしたってなぁ…」

持ち前のパワーでなんとか順位表の名前が判別可能の場所まで来たとき、唄子はなんともいえない微妙な表情になった。

「な、なんだよシケたツラしやがって。そんなに悪かったのか? 何位?」

「………13位」

「うぇえええマジで!? 全然いいじゃん! もっと喜べよ!」

「いや、A組なんだからこんなもんでしょ」

俺のテンションと大違いの唄子は、自分の順位に不服のようだが13位の何が悪いのか俺にはわからない。まあ成績トップのAクラスなのだから40位以内には入るのが普通ではある。

「正直もうちょっと上だと思ってたんだけどなぁ…。あー…やっぱり化け物がいたかぁ」

「いや、この場合お前が化け物だろ。やっぱ普段勉強してる奴は違うな」

まだ下にずらーっと続く名前を見ると唄子のすごさがわかる。ただの痛い妄想女じゃなかったのか。

「つーかこの順位表、一体何位まで載ってんだ?」

「全員分あるよ。隣も、その隣の紙も1年の順位表だから」

「ぜ、全員分!?」

しれっと答える唄子に俺は思わず驚愕した。だって、こういうのって普通成績上位者だけなんじゃないだろうか。全員が載っているということは、つまり…俺のも?

「うわぁ…」

自分のテストの出来が思い出せず意気消沈していた俺のすぐ近くで、見覚えのある団体が騒いでいた。うちのクラスの、さっきまで俺とサッカーしていた連中だ。

「なんだアイツら…騒がしいな」

「ああ、どうせまた八十島君が1番だったから盛り上がってるんでしょう。やっぱり頭いい人間は違うわ」

「いいい1番!? アイツが!? マジで言ってんのそれ!」

「うん。だって彼、中等部でもずっと首席だったらしいし」

「ひぇー」

改めて、横で友人に囲まれているのんきに笑っている八十島を見た。健康的に焼けた肌、サッカー部らしい足の筋肉、どれをとってもただのスポーツマンにしか見えない。テスト期間中も部活に自主練行っちゃう、みたいな。とてもこのガリ勉高校の頂点にいるような奴だとは思えない容貌だ。スポーツ万能で超秀才とは、天は二物を与えるらしい。

「取り柄なんざ、一個あれば十分だと思うがな。それに、運動神経は俺の方がある!」

「あたしだってね、別に八十島君に勝とうなんて思っちゃいないのよ。ただ、せめて一桁以内には入りたいかなーなんて…」

「…何の話だ?」

ぶつぶつと卑屈な表情で何かをつぶやいている唄子を放って、俺は無意識のうちに再び八十島を視界に入れた。奴はある意味かわいそうな男でもある。ここが共学なら女子にモテモテの楽しいスクールライフが送れただろうに。ほぼ男子校に近いこの学園じゃ宝の持ち腐れ。ドンマイ…!

端から見れば俺の状況の方がよっぽどドンマイなことを棚に上げて、俺は奴に同情していた。
あまりに長く眺めすぎたせいだろうか。八十島が俺の存在に気がつき、俺と目があった瞬間、何を思ったかあの男は柔らかく微笑んだ。

俺に向かって。


「見た!? や、八十島君が笑った! いまキョウちゃんに笑いかけたよね!」

「いや俺にじゃないだろ。お前じゃね?」

「んなわけないでしょ。どんなネガティブよ」

やっぱ超カッコイイ! を隣で連発する唄子を無視して、俺は目線を順位表に戻した。

イケメンでスポーツ万能で、頭も良いなんていけ好かねぇ。唄子は奴と友達になって欲しいようだが、俺の理想とする友人関係は広く浅くではなく狭く深くだ。いくらサッカーという共通の趣味があるとはいえ、八十島と俺みたいな真逆のタイプが親密な関係になるとは到底思えない。なにより、クラスの中心的存在の奴になんとなく苦手意識を持っている俺には、その気がまったくなかったのだ。


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