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ストレンジ・デイズ



「うっしゃあ! 3本目!」

とにかく前に出まくって常に絶好のポジションをゲットした俺は、自分でもちょっと驚くほど次々とゴールを決めた。多少のブランクなんて何のその。サッカーの神が再び俺に光臨したのだ。特に他の連中より抜きん出て上手い八十島とのコンビネーションは抜群で、2人で合わせて5つも得点を入れた。最初俺を舐めきっていたクラスメート達の唖然とした表情を見て、俺はすっかり図に乗っていた。

「はーはっはっはっ! あの伝説のマルチフォワード、西中のペレとは俺の事! てめぇらとはレベルが違うんだよ! 俺を甘く見たこと後悔させてやる!」

「西中? 小宮、中学どこ?」

「えっ、いや」

おおっと危ない。俺の極秘プロフィールをうっかり八十島にしゃべっちまうとこだった。そんなことしたら絶対香月に怒られる。

俺が頭の中で必死に言い訳を探していた時、都合良く集合の合図である笛が鳴り、試合は終了となった。結果は5対0で俺達の圧勝。向こうにもサッカー部はいたようだが、ほとんど俺と八十島で勝負をつけてしまった。

「勝った勝った! お前すげーな小宮!」

絶対にこっちが勝つとか言っておきながら、八十島の喜びようといったらまるで小学生のガキだった。それは他の男達も同様で、集合してもなお騒ぐ俺達を榊が怒鳴って静かにさせた。体育が終わり、手で顔を仰ぎながら校舎に戻ろうとした時、唄子が俺にキラキラした視線を送っていることに気がついた。

「見てたよキョウちゃん! すっごくかっこよかった!」

「………あ、ああ」

唄子に純粋に誉められ何だかむずがゆい。コイツが俺を見た目以外で誉めるなんて滅多にないことだ。

「ほんとにスポーツ好きなのね。どんなに授業サボっても体育だけは毎回でてるし。でも、これをきっかけにクラスでの総受け伝説が始まるかも…! きゃー!」

唄子のどうしようもない妄想がまたしても始まる。きゃー、じゃねえっつうのこの迷惑女。

「キョウちゃん、この機会を逃してはダメ! さっきの男子はAクラスのイケメングループよ。是が非でも仲良くしなさい。つーかいい加減友達作れば」

「うっせえ、友達ってのは作るもんじゃなくて自然に出来るもんだ」

「自然に出来てないから言ってんじゃん」

唄子のあまりの言いぐさに何か言い返してやりたかったが、すべて事実なのだから仕方ない。最初の登校日に渇をとばしたせいで、なよなよした男共には嫌われるし他の比較的まともなグループからは引かれるしで、結局俺は友達どころかクラスメートと会話を楽しんだことすらないのだ。ちなみに昨日の女共はノーカウント。あんなのは楽しい会話でも何でもない。
もし俺にクラスの友人が出来るとすれば先程の男達だろう。俺は可愛い系男子には徹底的嫌われてるし、その他の男は俺と目も合わせてくれない。そもそもスポーツでのコミュニケーションの取り方しか知らない人間なのだ。

「まあ、サッカーしてる奴に悪い奴はいないって言うしな」

「えっ、そんなの聞いたことない」

思いっきり顔をしかめる唄子。仲良くなってみてもいいかなと思った矢先、あっさり出鼻をくじかれた。

「確かに、サッカーしてるからってのは違うかもしれねえ。中学んときも部内に1人悪魔がいたし。先輩なんだけどさ、すっげぇ怖ぇの。俺、生意気だってんで毎日いびられて、もう犯罪スレスレ」

「わお、生徒会長にも匹敵する鬼畜キャラね」

「いや、何百倍も恐ろしかった」

最終的に俺がその先輩に敬語を使っていたのは内緒だ。何物にも縛られないスタンスをとっている今の俺にとって、その事実は抹消せねばならない。

「もっと掘り下げて聞きたいとこだけど、今は時間がないわ。さあ、ちんたらしないで走るよキョウちゃん」

「何で?」

「朝のホームルームで言ってたでしょ。新入生実力テストの順位が発表されたって。さっさと着替えて見に行かなきゃ」

「テストぉ…?」

何だそれは。困ったことにまったく記憶にない。記憶に靄がかかってしまっている。ちなみに俺は嫌なことはすぐに忘れるタイプの人間だ。

そんなの見に行きたくないなぁと思いつつ、俺は唄子に急かされ勇み足で教室へと戻った。


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