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ストレンジ・デイズ



俺は少しばかり息を切らして旦那様の書斎の前に立っていた。意を決してドアをノックすると中から、誰だ、という声がする。旦那様だ。

「香月です」

「入れ」

俺はドアをゆっくりと開ける。旦那様は俺が入ってきたのと同時に安楽椅子から腰をあげた。

「ちょうどいい、お前に話があったところだ」

旦那様に促されて俺はデスク用の椅子に座った。彼もまた俺の目の前に腰を落ち着ける。
俺の雇い主、そして響介様達のお父上でもある真宮祐司。彼はいくつもの会社を手がける実業家だ。俺も時々だが会社の仕事を手伝っている。40代とは思えない若々しい容姿と風格で、仕事にも真面目に取り組み部下からの信頼の厚い─まあ色々と困った所もあるが─尊敬すべきお方だ。
だからこそ、今回のことには納得がいかなかった。

「聞きましたよ旦那様。響介様のこと。まさかあんな馬鹿げたことを、本当にさせる気じゃないですよね?」

「私は本気だよ。最神学園にはすでに手を回した」

旦那様の言葉に俺は絶句した。

「どうしてですか!? 理由を訊かせてください!」

怜悧様の我が儘に押し切られて、は理由ではないはずだ。そんな方ではない。

「すまない香月、本来ならば一番にお前に伝えなければならなかった。色々と立て込んでいてな」

旦那様の表情は険しかった。長年の付き合いだ。なにかある、と俺は感づいた。

「私は少し前、ある企業を買収した。それはお前も知っているだろう」

「……それがこの話とどういう…」

「待て待て。最後まで話を聞け」

旦那様は俺を宥めるようにいった。

「その会社の取締役だった田山という男。お前知ってるか?」

「田山…? 確か解任になった方ですね」

「ああ、そいつだ」

旦那様はいぜん深刻な表情のまま顔の前で手を組んだ。

「そしてそいつは職を失い、妻と子に逃げられたらしい。そしていま私を恨み、復讐しようとしている」

「なんですって?」

俺は自分の耳を疑いたくなった。もしこれが事実なら大変なことだ。金を儲けるためには手段を選ばない旦那様は敵も多い。いつかこんな日が来るのではないかと、前々から危惧していたのだ。

「ではすぐに護衛をつけましょう。何かあってからでは遅いですから」

旦那様は俺を雇ってくれた恩人でもある。何があっても守らなくてはならない存在だ。しかし彼は俺の提案にゆっくりとかぶりを振った。

「狙われているのは私ではない」

「え?」

訳が分からない俺をちらりと見て、旦那様は話を続けた。

「あやつは自分が受けた悲しみを、家族を失う辛さを、私にも味あわせようとしている。目には目を、歯には歯をってヤツだ」

「ということは…」

旦那様は眉間に皺をよせたまま頷いた。

「狙われているのは、響介だ」


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あきゅろす。
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