ストレンジ・デイズ
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「お姉様が来ると知っていたなら、絶対部屋を綺麗にしておいたのに! お姉様の部屋はここの何倍も豪華でゴージャスでエレガントなんでしょうね。あ、お姉様今夜私の歯ブラシ使います?」
「うっせぇ! いいからお前もうしゃべんな! 俺をそんな目で見るなぁああ」
へばりつこうとする柊と必死に奮闘する俺を見て、唄子は何も言わず廊下を歩いていく。助けろよ馬鹿! と悪態つきつつ柊を引きずりながら俺も唄子に続いた。ちらりと見る限りでは俺達の部屋となんら変わりない内装だった。奥へ進むとリビングがあり、そこで唄子が立ち止まったので俺も同じように足を止める。唄子の肩越しにのぞき込むと、ソファーにもう1人女がいた。三つ編みに眼鏡という、昭和初期かよと突っ込みたくなる容貌で、唄子と俺を凝視しながら固まっていた。
「急にごめんね。芽々ちゃんには了解もらったんだけど、今日泊まってっていいかな?」
「……」
「もしもーし。あんずちゃん?」
「…あっ、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって。先生にちゃんと了解を取ったのなら、勿論いいですよ」
「取った取った! ありがとうあんずちゃん!」
寝間着の唄子に抱きつかれながらも、そいつは俺を見ていた。よくわからん新参者が自分の部屋にいるのだから当然か。
「キョウちゃん、彼女の名前は丸山あんず。あたしの友達。で、こっちがキョウちゃんね」
「よ、よろしくお願いします…」
丸山というらしいそいつに蚊の鳴くような挨拶をされ、俺は軽く会釈した。おそらく俺の苦手なタイプだろうが、柊や唄子よりまとものはずだ。柊ときたら先程から俺を見ては息を荒くさせている。もはや変態の域だ。俺は知らないうちに変な友好関係を築いていた唄子に、仲良くなった経緯を訊ねた。
「なぁ唄子、お前何であんな変な女とつるんでんの」
「別に、キョウちゃんに会うまでは普通だったんだけど…。クラスが同じだから仲良くなるのは必然でしょう。それに芽々ちゃんとは部活が一緒だし。写真部よ」
「へぇーお前、部活とか入ってたのか。軟弱だな、男なら黙って運動部だろ」
「あたし女だもん。それに女が入れる運動部なんてここにはないし」
「……!」
「何ショック受けてんの。まさかコッソリ入ろうとしてたんじゃないでしょうね。だいたい何でキョウちゃんはルームメートの所属クラブを知らないの」
唄子に責めるような顔をされたが、興味がなかったのだからしょうがない。どうりで放課後帰るのが遅い日があったわけだ。
「ねぇお姉様、私、お姉様にお願いがあるんです」
柊が突然、俺を見上げながら猫なで声を出してくる。嫌な予感しかしない。絶対断ってやる。
「写真をぜひ撮らせてくださいませんか?」
「やだ」
「どうして!」
まさか俺が断るとは思っていなかったような口振りで、柊は嘆いた。
「もったいない! お姉様はまったく自分の美しさを自覚していません。お姉様はまさに現代の楊貴妃! 虞美人! 今この時をカメラにおさめないでどうするのです!」
こいつ…馬鹿か。
「嫌なもんは嫌だ。写真って何だよ。グラビア? まさかヌードじゃねえだろうな」
「ぎくっ……そんなわけないじゃないですか」
「聞こえたぞ」
俺は数歩後ずさり唄子の影に隠れる。今まで体験したことのない状況に、軽く貞操の危機かもしれないと俺はひっそり柊への警戒レベルを上げた。
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