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ストレンジ・デイズ



それから俺は香月の指示に従い、唄子と共に廊下で香月が戻ってくるのを待っていた。俺は風呂こそ入っていなかったものの上下ジャージ着用で唄子はパジャマ姿。あまり他人には見られたくない格好だ。

「駆除って具体的にどうやるんだ? ベッドひっくり返してゴキブリ探すわけにもいかねえだろ」

「さぁ…でも、妙に静かじゃない?」

俺達の不安をよそに、それほどの時間をかけず香月は部屋から出てきた。手に何かを抱えて。

「も、もう終わったのか?」

「はい、今バルサン焚いてます」

「バルサン!?」

俺はそれを使ったことはないが、どういうものかは知っている。煙で害虫を殺す恐ろしい道具だ。

「火災報知器が鳴るだろ!?」

「大丈夫ですよ。反応しないようにしてありますから」

手回しの良さだけは誉めてやってもいいが、バルサンを使うなら香月が来た意味はないのではないか。これにはさすがの唄子も困惑気味だ。

「で、でも香月さん。あたし達はこれからどうしたら…」

「今夜一晩、この部屋はお使いになれません。申し訳ありませんが、今日はご友人の部屋にお泊まりください」

「はぁ!?」

なに言ってやがるんだこの男は! 正気か?

「そんなことしたら他人に俺の女装がバレるだろ! お前の部屋に泊めさせろ!」

「俺もそうしたいのですが、俺の同室者が100パーセント許してくれません」

「同室者ぁ? 聞いてねえぞそんな話」

香月が誰かとルームシェアしていたなんて知らなかった。俺はそいつの正体を問い詰めようと香月に突っかかったが、唄子にあえなく止められた。

「わかりました香月さん。今日のところはそうします」

「ちょ、お前なに勝手に…」

「うるさいキョウちゃん。今更ぐだぐだ言ったって仕方ないでしょう」

「で、でも化粧はどうすんだよ! このままずっとしてろってか!?」

「1日ぐらい我慢しなさい」

「な…」

あまりの扱いに絶句する俺を擁護する者はおらず、香月は手に持っていた物をすっと差し出した。

「俺の不備で申し訳ありませんキョウ様。これ、寝間着です」

俺のパジャマだったらしい服を唄子が丁寧に受け取り、香月は唖然とする俺にとびっきりの笑顔を見せる。お前全然申し訳ないと思ってねえだろ、と香月を睨みつけるも奴の笑顔が崩れることはなく、結局俺の意見は全面的に無視された。







香月が去った後、ふと疑問に思った俺はいまだ怒り冷めやらぬまま唄子に訊ねた。

「つーかさぁ、アイツご友人んとこに泊まれとか言ってたけど、友達いねーよ俺」

「悲しいね、キョウちゃん…」

「うるせぇ、お前だっていないだろ」

「いるわよ馬鹿。一緒にしないで」

「はぁ!? いつの間に!?」

「キョウちゃんがしょっちゅう授業サボってる間に。今日はその子達のところに泊めてもらいましょう」

「念の為に聞くが…女だよな?」

「あ、た、り、ま、え」

そう言い捨てた唄子は俺を残して廊下をスタスタと歩いていく。というか…女の部屋に男の俺が泊まってもいいのだろうか。誰も疑問に思わないのが不思議なくらいだ。すでに唄子と同居している俺が言う事じゃないが。

「キョウちゃんって、変だよね」

仕方なしに唄子の後を追う俺に、奴はそんなことを言いやがった。

「失礼な奴だな。俺のどこが」

「だって普通女の子の部屋にお泊まりなんて、世の男子は喜ぶもんじゃないの」

「お前と同室になった日から女に夢見んのはやめてるよ」

「えっ、なんで!?」

うわ、訊いちゃったよコイツ。

「だってお前、小言うぜーし寝言はうるさいし会長と俺で変な妄想するし、その上帰ったらすぐ机に向かって勉強しやがって。ハッキリ言ってキモいんだよ! もはやお前は女じゃない」

「ちょっと! 前半はともかく勉強はいいでしょ!」

俺は怒った唄子を無視してそのまま進もうとしたが、奴に腕をつかまれ足を止められてしまった。

「着いたよキョウちゃん、ここ」

「…って近ッ!」

唄子が指差したドアは、俺らの部屋から数メートル先にある部屋だった。よくよく考えてみれば超少人数の女子の中で同じクラスともなれば、部屋が近いのも当然だろう。

「ノックする前に一応言っとくけど、キョウちゃん変な気起こさないでね」

「変な気って何。俺を変態扱いすんな」

「あたしの友達は、普通の可愛い子達だから心配なの!」

「どうせただのガリ勉だろ。心配ないない」

「……」

確かに本当に美少女とのお泊まり会ならば、普通の男はまず眠れないだろう。だが美少女なら俺にはかなりの免疫がある。妹と他人はまた別だが、ウチの怜悧以上に可愛い人間がいるとは思えない。


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あきゅろす。
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