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ストレンジ・デイズ
□出会って1分、失恋


目の前にいる“ソイツ”を見たとき、すでに俺の恋は始まっていた。少女マンガのようにデカくてキラキラした瞳、ツヤツヤでサラサラのロングヘアー、赤ん坊みたいに白く透き通った肌。どこか儚さを感じさせる顔つきは、子供のような無邪気さと、妖しい色気が共存している。

こんな美人、テレビの中だけの存在かと思っていた。いやひょっとしたらそれ以上の逸材かも。
今までは外国の女っていいよなー、国際結婚してぇなぁー、などど夢見ていたが、考えを改めねばなるまい。長い黒髪に大きい黒い瞳、日本人が古来より受け継いだ気品や妖艶さを象徴したかのような女性が、いま目の前にいるのだ。

ど、どうしよう。何か気の利いた言葉をかけたほうがいいのか? あぁでも恋愛経験未知数の俺にはこういうときに使える対処法がない。くそっ、俺のバカ! クズ! ダメ人間! あんな美人と目がバリバリあっているってのに、場を和ませるジョークの一つも言えないのか! いや待て、…見られている? なぜだ? なぜこんなにも彼女は俺に熱い視線を送ってくるんだ。もしかして俺のことが………って待て待て待て、そんな都合のいい話あるわけないだろ響介。こんな美人がいたって平々凡々な俺のことを気にとめてくれるはずが…、

「ね、お兄ちゃん! 絶対かわいいって言ったでしょ!」

隣にいた俺の妹の言葉で俺は現実に引き戻された。妹はメイク道具を片手ににこにこ微笑んでいる。

可愛い? 可愛いって、この人のことだよな。そんな話してたっけ。…っていうか俺はここに何しに来たんだっけ?

思わぬ美人との遭遇に記憶がどこかへ飛んでいってしまったみたいだ。

「だから似合うってあれだけ言ったのに〜。お兄ちゃんベースがいいんだから」

妹の言葉の意味がわからなくなってきた。どうしよう。

思案する俺を見て妹はにっこり微笑み、謎の美人の肩に手を置いた。いや、正しくは俺の肩に、だ。



………ん?



「一度やってみたかったのよ、お兄ちゃんにお化粧するの!」

な、な、な、こここここれはもしかして…いやいやいやそんなわけないだろ、そんなことあるわけないだろ、うん。

「お兄ちゃん、すっごく似合ってるわよ、女装」


あ。
今この瞬間、疑いが確信に変わりました。

この黒髪美少女は鏡にうつった、……俺だ。


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