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未完成の恋
004


「言ってきたぞ」

俺がそう言うと、ひなたは顔を真っ赤にさせた。

「どうしよう圭ちゃん…!」

今さら後悔か?
しょうがない奴だな。

「どうしようって…、もう言っちまったんだから、行くしかないだろ」

「でもでも、なんか緊張で心臓ばくばくだよ。こんなんで、ちゃんと言えるのかな…」

不安感に襲われるひなたを安心させようと俺は優しく肩をさすった。

「大丈夫、ひなたならやれる。終わるまで、俺がここで待っててやるよ」

「圭ちゃん…」

ひなたはありがとうと微笑んだが、彼の瞳はまだ不安げに揺れていた。





* * *





「じゃあ、行ってくる」

「おぅ。一発かましてこい!」

拳をぎゅっと握る俺を一瞥して、ひなたは教室を出ていった。あいつは今から九ヶ島に告白するんだ。ひなたのためにも成功してほしいと思う。それでひなたが喜ぶんなら。

本音を言えば、九ヶ島の野郎になんかひなたを任せられるはずがない。あのスカした面、いつ見ても腹が立つ。お高くとまりやがって。あいつのどこがいいんだ。ひなたは顔だけで判断するような奴じゃない。なのに何故あんな見た目だけの男。

だがそんなことひなたに言えるはずもなく、俺が今出来ることはここでひなたを待つことだけだ。

急に重く感じた頭を休めるために、俺は机に頬をくっつけた。
教室には誰もいない。ついさっき掃除を終えた奴らが出ていった。窓やドアが全開なので、サッカーボールを蹴る音、吹奏楽部の楽器の音、様々な雑音が聴こえてくる。今日だけはそれがなんだか、とてもうるさく感じた。

ひなた、大丈夫だろうか。もしダメだったら今日はずっと俺がそばにいて、なぐさめてやろう。


俺達の友情が“いきすぎ”だと言われたこともある。お互いがお互いに依存しすぎだと。確かにそうなのかもしれない。

別に俺はそれでかまわない。あいつのためなら見返りなしで何でも出来る。他人にどうこう言われたってかまうもんか。

その時、とつぜん外から黄色い悲鳴が聞こえた。
俺が座っている席は窓際だったので、すぐに外が覗きこめた。
そこにいたのは、俺のよーく知っている男、九ヶ島成瀬。奴のファンらしき数人の生徒が騒いでいる。

九ヶ島は駐車場になっている校舎裏を一人颯爽と歩いていた。部活中の連中が九ヶ島を見てはしゃぐが、奴はまるで気にしていないようだった。
九ヶ島の足が向かう先には、体育館がある。おそらくひなたに会いに行くのだろう。俺は心の中で颯太先輩に礼を言った。

だが九ヶ島は急に立ち止まり、おもむろに校舎を見上げた。窓から奴を覗き見ていた俺と、ばっちり目があってしまう。奴と視線がぶつかった瞬間、俺は動くことが出来なくなった。九ヶ島の鋭い瞳が俺の動揺した瞳とかち合う。視線を感じたのだろうか。どうやら九ヶ島を見つめすぎてしまったようだ。おそらくその時始めて、俺はまともに九ヶ島を真正面から見ていた。

着くずした制服、さらさらの透き通るような金髪、荒っぽさを感じさせない端正な顔立ち。ただし目つきだけは不良らしく冷淡に光っている。

奴の射るような視線に絶えられなくなり、俺はゆっくり目を背けた。

どくんどくんと心臓の音がはっきり聞こえ、心拍数が跳ね上がる。なぜだ、俺があんな奴にビビっているとでも?

まさか、と俺はそんな考え簡単に頭から追い出した。


再び窓から顔を出し、下を覗き込む。
もう九ヶ島はいなかった。


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