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未完成の恋
片思い


目つきの悪い顔は真っ黒の髪で隠し、チャラチャラした金属は1つもつけない。息苦しいボタンこそちゃんとはしめていないものの制服は着崩さず、間違っても上に目をつけられないように気を配っている。

高校に入学して1ヶ月とちょっと、殴りたい奴はいくらでもいた。キレる場面もたくさんあった。それでも俺は、堪えて堪えて、これでもかってぐらい堪えまくって、今までの学校生活を過ごしてきた。

そしてその苦労がむくわれ、俺は周囲にとってただの平凡なクラスメートの1人となった。授業をサボらない、上級生に喧嘩を売らない、教師を殴らない、普通の生徒。

すべては、アイツのそばにいるための、慣れない努力だった。











梅雨の時期なんてなんのその。少し顔を上げれば嫌みなくらい晴れ渡る空が広がっている。雨が嫌いな俺にとっては好都合だ。

「おはよう圭ちゃん!」

もう聞きなれたその声と言葉に、俺の顔は無意識にほころんだ。振り向けば、もう何度見たかしれない笑顔がそこにある。少し息をきらした親友、天谷ひなたがにこにこしたまま俺の隣に並び、俺は重かった足が急に軽くなるのを感じた。

「はよ」

俺の精一杯の愛想良い挨拶に、ひなたはバカにしたように顔をしかめた。

「…圭ちゃん、相変わらず不機嫌そうな顔だね」

この顔は生まれつきだ。指摘されても、直せない。

「うるせえな、ひなたが明るすぎるんだよ。そんなに学校行くのが楽しいか」

「うん」

ひなたは俺の嫌味に素直に答え、笑顔で俺をじろじろ見てくる。いけ好かないことこの上ないが、コイツほど笑顔が似合う男はいないんじゃないだろうかと思う。ひなたの笑顔を見てると、つられてこっちまで笑ってしまいそうだ。

「いいよな…、俺なんて学校があるってだけで、憂鬱になんのに」

「圭ちゃん、学校楽しくないの?」

ひなたは、男にしては可愛らしすぎる顔で俺を覗きこんだ。

「楽しいか、だって? 男子校でどうやって楽しめってんだよ。どこ見ても男ばっっか。青春のトキメキなんざ、夢のまた夢」

途端にひなたの顔が目に見えて曇る。

……しまった。

「ごめんね圭ちゃん……、僕が無理やり男子校になんか入れちゃたから…」

ああぁ、またやっちまったよ俺。

「違う違う! この学校は俺が、自分で選んだんだ! ひなたは関係ない」

これは嘘だ。ひなたが負い目を感じないようにつく嘘。
俺は男子校なんてむなしい所、普通だったら絶対に通わない。だが、ひなたに『僕、圭ちゃんと同じ学校に行きたかったなぁ…』などとしおらしく言われ、志望校なんて簡単に変えてしまった。

「でも圭ちゃんは、女の子好きなのに…」

「別に俺、女好きじゃねえって! だって俺は…」


かなり恥ずかしいことを言おうとしていることに気づき、俺の顔はみるみる赤くなった、

「圭ちゃん?」

う。
俺、ひなたの顔を見ると、なぜかなんでも素直に話しちまうんだよな。

「俺…、恋愛とかそーゆーのより、友達のが大事だし」

俺の顔から火がでそうなくらい恥ずかしい発言に、ひなたは顔をほころばせた。

「ありがと、圭ちゃん」

ひなたの「ありがとう」という言葉、何度言われただろう。
感謝された理由は様々だが、全部に心がちゃんとこもっていた。




ひなたといる幸せを噛みしめているうちに、気がつけば学校についてしまっていた。
また始まってしまう。男ばっかりのムサい学校生活が。

しかしこんな学校でも、ムサく生きている奴ばかりではない。ちゃーんと恋愛している奴もいるのだ。多すぎるくらいに。

「きゃーー!」

突然、女かと思うほどの甲高い声が聞こえた。すっかり慣れたその光景に、俺はもちろんまったく驚かなかった。

「九ヶ島様ぁー!」

「今日も素敵〜!」

どんなに甲高くても声は男だ。最初こそなんだこれはと驚いたが、今じゃすっかり日常の一部。

この騒ぎの中心は1人の金髪の男。
ここ瀬生学園一の不良、九ヶ島成瀬だ。

入学してから知ったことだが、この男子校に通う生徒の半分はホモかバイ。残りの半分もそういった性癖に偏見がまったくない。偏見がある奴は、まずこの学校に入学などしないのだ。俺はひなたの通う高校というだけで入学を決め、ろくに調べもしていなかったので最初はかなり驚いた。

そしてここの支配者とも言える男が、今眉間に皺を寄せながら登校してきた九ヶ島成瀬である。

長すぎる足に整いすぎた顔。おまけにスポーツ万能、頭がいい、金持ちとくればモテないはずがない。九ヶ島に好意をよせる輩は多く、ファンクラブまで出来てしまっていた。
噂では換えのきくセフレが何人もいるとか。嫌な野郎だ。

九ヶ島にいい印象を持てない理由はまだある。決定的な理由が。

「圭ちゃん」

「何だよ」

「……九ヶ島先輩、今日もすごくカッコいいね」

顔を真っ赤にして九ヶ島成瀬を見つめるひなた。

これが、俺の九ヶ島を毛嫌いする1番の理由。

ひなたは、奴が好きなのだ。もちろん恋愛感情で。


「そうか?」

「そうだよ!」

いつになく声を張り上げる俺の幼なじみ。九ヶ島への好意がそうさせているのだと思うと、ますます奴が嫌いになりそうだった。

「ごめん、圭ちゃん…」

俺の機嫌が悪くなったことに気づいたひなたが、あわてて謝ってくる。声を荒げてしまったことと、男に恋愛感情を持てない俺にこんな話をしてしまったことに対してだろう。
バカな奴、そんなの気にすることないのに。

そんな思いを込めてひなたの頭をポンと叩き、俺は昇降口へ向かった。


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