未完成の恋
003
俺はあの日、自分の気持ちに気づいた日から、九ヶ島との連絡を一切断ち切った。電話がきてもメールがきても、全部無視していた。案の定奴は俺に接触してきて結果、俺たちは終わった。
アイツは本当のところ俺をどう思ってたのか、それはわからない。やはりただのセフレの1人だったのだろうか。だとしたら演技がうまいと褒めてやりたい所だ。今となっては、もうどうでもいいことだが。
結局、どうしたってたって俺はアイツを好きではいられなかった。ひなたを裏切ることはできない。九ヶ島だって、本当の気持ちは見えないままだ。だからこれで良かった。
明日から少しずつ、九ヶ島のことを忘れていけばいい。
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その日、天谷は教室にいなかった。
人ごみが嫌いな俺はかなり早く登校する。朝のあまり人のいない電車が、人のいない通学路が、なんとなく好きだった。
今日も朝早く席についた俺は窓から天谷が校門をくぐるのを見た。それなのに天谷は教室に来なかった。
けれどその時の俺は特になにも思わなかった。天谷は前にも朝っぱらから新田達に絡まれて遅刻したことがある。きっと今日もその類だ。
俺は頬杖をつき、ため息を吐いた。天谷も災難に、新田達もよく飽きないよな、なんて取り留めのないことを考えながら。
もう少しでホームルームが始まるといった時、新田らが教室に入ってきた。あとから天谷が入ってくるだろうと扉に目をやっていたが、誰も扉を開けない。俺はなんだか嫌な予感がした。
「おい」
なぜ声をかけたのかはわからない。ただ本当に嫌な感じがしたのだ。
「天谷、どこに行った」
声の主が俺だと気づくと新田はビクッと肩を震わせる。まだ身体は俺を覚えてるらしい。
「天谷なんて、知らねえよ」
「本当か?」
俺は新田の胸ぐらをつかみ睨みをきかせた。
「や、やめろって…」
「本当に知らねえのか?」
「しつこいな!」
言い合いをする俺達の険悪な雰囲気に周りがどよめく。俺はまだ新田を疑っていた。なぜならそれ以外に天谷が来ない理由がないからだ。
「…あの、木月くん?」
遠慮がちに声をかけてきたのはすぐ隣いた女生徒だった。ずいぶんと勇気のある女だ。
「天谷君なら、昇降口で見たけど」
「…いつだ?」
我ながら厳つい顔を向けるとその女子は少し後ずさった。
「少し前、朝に見たの。先輩達と一緒にいたみたい」
彼女は後ろを向き、ねえ、と友達に同意を求める。友人らもしきりにうんうん頷いていた。
「先輩? 先輩って誰だ?」
俺の質問をきいて彼女は考えこむように眉に皺をよせた。
「3年生の、目立ってる人。金髪の」
「金髪…? もしかして九条か!?」
3年の金髪なんていったら奴しかいない。違っていてほしい、と思ったがそれは叶わなかった。
「そう、多分その人」
俺はショックのあまり言葉を失った。九条が天谷に何の用だってんだ。
「どこに行ったかわかるか?」
「え、さあ…。見たときは昇降口だったけど…」
俺は彼女の返事を待たず教室を飛び出した。もし九条が天谷を連れて行ったならそれは俺が関係してる可能性が高い。最近の俺はずっと天谷と一緒にいた。九条もそれは知ってるはずだ。もしかしたら、天谷は──
俺は悪い考えを頭から追い出しひたすら走った。
早く、早く見つけなければ。
天谷が危ない。
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