[携帯モード] [URL送信]

未完成の恋
心恋し


地を照らすはずの太陽は長いこと分厚い雲で覆われ、激しい梅雨の雨が地面にたたきつける。気分が悪くなるほどの湿った空気を感じながら、俺は陰鬱に顔をしかめ訳の分からない式、数字と向かい合っていた。

「圭ちゃん、そんな調子じゃ終わんないよ」

なかなか進まない俺をひなたは優しく叱咤する。そんなひなたを横目に、俺は手を器用に使って愛用のシャーペンをぐるぐる回していた。

「数学つぎの時間だよ、間に合わないよ」

「わかってる!」

だからそんな焦らすな、と俺は左手の手のひらをひなたに向けた。

俺がいま闘う相手は数学の宿題という強敵だ。今まで俺は不戦敗という方法でヤツをさけてきたが、先日数学教諭に手ひどく怒鳴られ宿題をせざるを得なくなった。いや本当は今回も試合放棄するつもりだったが、ひなた怒られ仕方なくこうしてるというわけだ。

「だからχはここに代入するの。そんな変な計算、勝手に作ったら駄目だって」

「…わかんねぇもんは、わかんねぇんだもん」

シャーペンを投げ出そうとする俺の手をひなたは両手で包み込むように握りしめる。力が強くて意外と痛かった。

「放せ、ひなた」

「投げちゃダメ! せっかくもうすぐ終わるのに」

互いに出来るだけ恐い顔を作って睨み合う俺達。あまりに迫力のないひなたの顔にもう少しで吹き出すところだった。

「ちっ……、わかったよ」

再びシャーペンを握り直しノートに向かう俺を見て、ひなたは満足げに微笑んだ。

制限時間は3分弱。
ラストスパートだ。
俺は解っても解らなくても、とにかく問題を解いた。集中力を研ぎ澄ましカリカリ答えを書いていく。もう俺を止められる者はいない。

「圭ちゃん」

ひなたの声にあっさり乱される俺の集中力。シャーペンの芯がパキッと折れた。

「圭ちゃんてば」

「なんだよ、今忙しいんだよ。わかってるだろ」

俺は問題から目を離さずひなたに早口でまくしたてた。

「圭ちゃんの携帯、光ってるよ」

ひなたの言葉に俺の手は止まる。ゆっくり視線を動かすと机に置かれた俺の携帯がぴかぴか光っていた。

俺は腕を伸ばし携帯を開いた。メールではなく、電話だ。

「誰から?」

俺は親指で電話を切り、ついでに電源も切った。

「迷惑電話」

俺の答えに興味を無くしたのかひなたは早く宿題をするように再び促した。俺も携帯をカバンに放り込み何もなかったかのように問題を解き続ける。俺は心の中で舌打ちした。



着信拒否、するべきだったろうか。



だいぶ時間を損してしまった。早くしないとあの鬱陶しいメガネじじいが来てしまう。俺は何かを忘れようとするかのように動かす手をさらに早めた。


[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!