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未完成の恋
004


教室には裸にされた男子生徒。彼に覆い被さるようにキスするのは紛れもなく九ヶ島成瀬、その人だった。

何をしてるかなんてすぐにわかる。俺も何回とされたことだ。

息も出来ないくらいの苦しさを感じる俺は口に手をあて力なく後ずさる。
九ヶ島にセフレがいるのは知っていた。周知の事実だ。でもそれは本気の恋じゃない。俺はそう思うことなく知っていた。それなのにあんな風にキスするなんて、まるで恋人同士みたいに、俺にするみたいに──


俺の喉が呼吸もままならないほど震える。こんなの、信じられない。今さっきまで俺と一緒にいたのに。九ヶ島、お前は俺以外の男をそんな簡単に抱けるのか。

事実から目を背けるように俺はあてもなく歩き出し、それから小走り、そしてついには走り出した。



別に裏切られたなんて思っちゃいない。だって俺は、あんな奴のことなんかこれっぽっちも好きじゃないんだから。あんな奴、あんな奴のことなんか──













ああ、どうしよう。
──泣きそうだ。










俺はゆっくりと走るのを止め、のろのろと歩き出した。九ヶ島のことなんかどうでもいいはずなのに、俺は溢れ出す感情を抑えきれなかった。

どうしてだ、九ヶ島。俺のこと好きだって、そう言ったくせに。嘘だったのか。もしかして俺は、ずっと──


「………そういうことかよっ……」


俺は自らの拳で固い壁を思い切り殴りつけた。不思議と痛みは感じない。俺の体はずるずると崩れ落ち、意味のない涙が止まることなく流れ出す。


やっとわかった。きっと俺は騙されていたんだ。好きだ、なんて言われてそれを簡単に信じ込んで。九ヶ島にとっては俺もただの都合のいいセフレでしかなかったのに。

そんな真実を突きつけられた俺の体は力が抜け、耐え難い苦しみを味わった。自分でもよくわからない部分が多すぎる。これは俺にとっていい知らせのはずだった。俺はずっと九ヶ島に好きでいて欲しくない、そう思っていたのだから。それなのにどうして、こんなにも涙が出てくるんだ。


「…うっ、うっ……」

嗚咽が漏れ、胸が痛みだす。そしてその痛みが頂点に達したとき、俺はやっとその簡単すぎる理由に気がついた。



俺は多分、いやきっと、九ヶ島のことが好きだったんだ。



いつからなんてわからない。理由もきっかけも思い当たらなかったけれど、確信はあった。だってもうそうとしか思えない。こんなことになるまで気づかなかった自分に呆れる程だ。

してはいけないことだとわかっていながら、九ヶ島に呼び出されれば素直に従っていた。嫌だと思っていながら拒絶しなかった。ましてやひなたの思い人だ。落ち着いて考えれば、俺のしていることは到底理解出来ないことばかりだった。

ひなたへの罪悪感から俺は今の今までずっと、自分に嘘をついてきた。
でも、それも、今日で終わり。たとえそれが悪い結果をまねくことになっても。

嫌でも気づかされた自分の気持ちと浅ましさに、ここが学校だということも忘れて俺はむせび泣いた。自分が守るはずだった親友と、偽りの告白をした九ヶ島を想って。



「──圭人?」


人の気配に体が強張る。聞き覚えのある声だ。恐る恐る顔を上げる俺の目の前に、いままでずっと俺をささえてくれた人、颯太先輩が立っていた。


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あきゅろす。
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